Rally

【ダカール2023特集⑥】ダカールの戦い方を知って、もっと観戦を楽しもう

耐久レースや、自転車のロードレース、はたまたサッカーなどあらゆるスポーツに戦術があるように、ダカールラリーにも独特の戦い方があります。それが分かっているといないとでは、レース観戦の楽しさがまるで違いますよ!?

【ダカール2023特集⑥】ダカールの戦い方を知って、もっと観戦を楽しもう

ダカールラリーはどういうレースか、基礎をまず抑える

「ラリー」とひと口にいっても、その実態はさまざまです。たとえば四輪のWRCは長い距離を走るという側面よりも、峠道やグラベルをいかに速いタイムで駆け抜けられるかに特化したレースです。ダカールラリーの場合は、全行程8000kmほどと、まずその走行距離の長さに特徴があります。スケジュール的にも2週間におよぶ長大な日程で、今でこそサウジアラビア1国で開催されていますが、過去にはアフリカ大陸を縦断したこともあり、基本は国をまたぐ「クロスカントリー」ラリーとして生まれました。創始者ティエリー・サビーヌが「私にできるのは、“冒険の扉”を示すこと。開くのは君だ。望むなら連れて行こう」と言っているとおり、このラリーはモーターサイクルライダーや四輪ドライバーに開かれた「冒険の扉」なのです。

ラリーに定められた「ルート(移動路)」の中には、いくつかタイムアタックのための「スペシャルステージ」が用意されていて、そのスペシャルステージでの積算タイムで順位を競います。基本的に「ルート」で飛ばす必要はありません。細かなルールはさておき、「スペシャルステージ」がとにかく速ければいいんです。ラリーってルールが複雑なのかな、と思いきや、実はとてもシンプルなんです。



昨今のダカールラリーはナビゲーションに重点が置かれているとも言われています。「ルート」および「スペシャルステージ」はロードブック(コマ図)と呼ばれるものに書かれています。コマ図は「何キロ地点で、左に曲がる~」のような指示が書かれているもので、トリップメーターを見ながらこのコマ図に従っていけば途中で間違わない限りゴールまで行けるようになっています。言うなれば、自動でルートを出してくれないカーナビのようなもの。「ルート」はタイム計測されていないのでゆっくり見ることができるのですが、タイムを競う「スペシャルステージ」でもコマ図を見ながら「ルート」をたどる必要があるためたいへんです。時には140km/hを超えることもあるハイスピードのなかで、コマ図とトリップメーターを確認しながら走行しているのです。

さらに、スペシャルステージには道なき砂漠もあります。道もわだちもない場所はオフピストと呼ばれますが、このオフピストでは基本的にカップ(方位)だけが頼りとなります。コマ図には何キロ進んだら、方角何度に曲がる、というような書き方で書いてありますが、1度でも曲がる場所を間違えたらその後すべてが狂ってしまうので、ライダーたちは間違えたと思ったらトリップメーターの距離と照らし合わせて逆算してみたり、あるいはコマ図を戻したりしてリルートします。正しいルートが見つからなかったら、当然秒単位で争っているリザルトはガタ落ち。

どうですか? 難しそうでしょう! そうなんです、このナビゲーションこそが現代のダカールラリーの戦い方を握る鍵なのです。



ナビゲーションを100%しなければいけないのは、実は先頭だけ! 毎日繰り広げられるシーソーゲーム

道もなくわだちもないオフピストとはいえ、前に走ったライダーがいればタイヤの跡が残っていますし、砂漠で視界が開けていれば前走車の姿が見えることもあります。つまり、2番目以降のライダーは前走車をある程度頼りにできるわけで、先頭のライダーだけがナビゲーションに苦労するという仕組みになっています。

ダカールラリーの走行順は、原則前日の順位を反映すると決まっています。つまり、前日1位だったライダーは翌日のステージで不利な先頭を走ることになります。これがダカールラリーをおもしろく観戦する上で欠かせない要素の一つなのです。1~10番手のライダーは3分おきにスタートを切るので、前日2位だったライダーは1番手のライダーを追い抜くことで3分縮めることができます。1番手のライダーはナビゲーションをしながら走るので、この3分を守り抜くのはとてもたいへんなことなのです。1位だと次の日に不利になるから、といって仮に遅く走ってしまうと積算タイムがどんどん増えて順位を落としてしまう。毎日上位を獲れるライダーというのはなかなかおらず、上位のライダーは次の日に順位を落とし、10番手前後のライダーが前走車のあとを追って飛ばすことで急激に上位との差を詰める、そんなシーソーゲームが展開されています。

1位になると次の日が難しくなる、というジレンマの中で、いかに有利な戦略をチームや個人で立てていけるか? そこがダカールの戦い方になるわけです。なお、このシーソーゲームにスパイスを加えるため、一斉スタートや逆順スタートが取り入れられるステージがあることも。2023年のレギュレーションには、最終ステージのみ一斉スタートになる可能性がある、と示唆されています。



このシーソーゲームに対して、ライダーは各々戦略や個性を持っているのもおもしろいところです。例えば2020年、Hondaに優勝をもたらしたリッキー・ブラベックはこういった事情に左右されることが少なく、ステージごとに全力を尽くすタイプで2度のステージ優勝をしながらラリーを勝ち抜きました。ダカールでは数少ないアメリカ勢で、バハ1000などで磨いたスピードが有利に働いたと言えるかもしれません。2021年に優勝したケビン・ベナビデスも2回のステージ優勝を遂げています。最終ステージでは3番手スタートで逃げきりも容易かと思われたのですが、1番手/2番手スタートのライダーがナビゲーションに迷ったことで先頭を走らねばならず、1人でナビゲーションをこなして道を切り開かなければ優勝できない苦境に立たされました。ちょっとしたトラブルが、展開を大きく塗り替えるのが、ダカールなのです。



ダカールはチーム戦、後半になるにつれて増してくるチームメートの重要性

ダカールラリーはチーム戦としての側面も非常に大きいレースです。昔はウォーターキャリーと呼ばれるライダーが同じチームに参戦していました。ウォーターキャリーは優勝候補の補佐に徹するライダーで、文字通りスペアパーツや水などを運ぶ役目を果たします。

昨今のダカールラリーはファクトリーに属するライダーは全員が優勝候補になれる実力を持っていますが、後半になるにつれてタイム差が離れていき、優勝候補が絞られてきます。そうなると、チームメートの協力が重要になってきます。例えばスパートをかけたい時に、ナビをしてくれるチームメートが前方にいたらとても有利ですよね。また、ナビゲーションが難しく迷ってしまうような時にも、チームメートの助言が優勝への一助になったことがあります。



2023年新ルール! 1位の意味が変わる?

ここまで、ダカールのチェイスについて説明してきましたが、2023年のダカールではステージ序盤にトップを走ったライダーにボーナスを付与することが発表されています。ステージ優勝ではなく、スタートから主催者が決めた隠しウェイポイント(GPS上のポイント)までに到達した1~3位までに、ボーナスが与えられるというシステムです。スタートから隠しウェイポイントまでの距離でそのボーナスの多寡が決まるとのことで、たとえば1位で200kmの場合は5分のボーナスタイム。よりナビゲーションに優れたライダーが有利になってきます。さらに戦術の練り方は難しくなったと言えるでしょう。

冒頭で述べた通り、ルール自体はそこまで難しくないのですが、ナビゲーションやペース配分など、超長距離ならではの戦術が多数あるのがダカールラリー。多くのトップチームにはストラテジーを考える専門のスタッフがおり、司令塔の監督がチームを動かすのです。ゆえに、レースが進んでタイム差が出てくると「このライダーは苦しいに違いない……」、「このライダーは昨日1位を獲ったのによく3位に入ったな!」など、レースの見方に深さが加わること間違いなし。ぜひ、2023ダカールラリーは戦術にも注目して観戦することをおすすめします。



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