【ダカール2023特集④】ダカールラリーはレギュレーションこそおもしろい
ダカールラリーでは毎年レギュレーションが変更されます。ライダーがかなりの影響を受けることはもちろん、変更点から主催者側の思いや大会を重ねるごとに見えてくる課題を解決するための意図が見えてくるため、観客にとってもおもしろさを感じるポイント。ナビゲーションにまつわるもの/安全面を考慮したもの/マシン整備に関わるもの/こんなのあり?と思う変わったレギュレーション、という4つのカテゴリに注目して、サウジアラビアに舞台を移した2020年から2023年までの変遷を追ってみましょう。
①ナビゲーションにまつわるレギュレーション
2020→2021
ロードブック配布タイミングの変更
2021年から、ロードブックの配布がすべてのステージでスタート直前に行われるようになりました。2020年に一部の区間で導入されていた方式が、全ステージで適用された形です。事前に配布されていた時は、ライダーやマップマンと呼ばれるルート解析を行うスタッフがルートを研究し、それを元にライダーはレースに望んでいました。しかし、スタート直前に配布されることでそれが不可能に。全ライダーとドライバーの公平性が高まり、ライダー自身の対応力が試されることになりました。
「スローゾーン」が新設
ルートの中でも走行のリスクが高いハザードレベル2と3のゾーンがあります。ここでのアクシデントを減らすため、ライダーが近づくと警告音が鳴り、注意喚起が行われるようになりました。さらに、特に危険な区間では、時速90km以内という制限を設けた「スローゾーン」が新設。競争心を抑えてでも安全に走る、ライダーのメンタルも重要になりました。
2021→2022
完走しなくても再スタート可能に
これまでは、ステージを完走できなかったライダー/ドライバー/クルーはそこでレースを終了していましたが、2022年からはステージを完走できなくても、レースに復活できるようになりました。ただ、最終ステージの3日前までの復帰が条件であり、リタイアは3回未満かつメディカルサービスの許可が出ている必要があります。
ウェイポイントの追加
ロードブックに記載されたコースを正確に走れているかをチェックする「ウェイポイント」が新設されました。ウェイポイントではバイクに積んであるGPSをもとに、規定のポイントを通過しているかを主催者側が判断。ライダー側は自身のGPS情報を見ることはできないため、ロードブックに記載された番号や順路のみを頼りに走ります。ウェイポイントを通過しなかった場合は、2分のペナルティーが科せられます。
2022→2023
ロードブックが完全デジタル化
これまで紙で配布されてきたロードブックがすべてのマシンカテゴリーにおいてデジタル化され、タブレットでの配布になりました。先駆けて車やトラックに搭載することで実用化に向けたテストが行われており、2023年から全車種への適応が始まります。
ボーナスタイムの導入
新ルールとして、スタート地点からウェイポイント(平均約200km付近に設置)に早くたどり着いたライダーには、翌日にボーナスタイムが付与されます。得られるのは3番手の選手までで、例えば200km地点にポイントがあった場合、トップの選手には200✕1.5秒=5分、2番手の選手には200✕1秒=3分20秒、3番手の選手には200✕0.5秒=1分40秒のボーナスが与えられるシステム。ナビゲーションに優れたライダーがより有利になってきます。
AとB、2ルートがランダムに配布
スペシャルステージには、AとBの2つに分かれたルートがあります。2023年の新たなルールとして、ライダーにはAルートとBルートがランダムに配布されることに。これはルートの難易度を上げる目的があります。ライダーにとっては、前を走るライダーが同じルートを走るかわからないため、前のライダーについていく、という作戦がし難くなりました。ライダー個人の適応力がより求められるようになっています。
②長距離ならでは、安全面のレギュレーション
2020→2021
給油中の補修作業禁止
給油ポイントとニュートラルゾーン(SSの中でタイム計測を行わない区間)でのメカニックの補修作業が禁止されました。ライダーに与えられた15分間の休憩時間は燃料補給とライダーの休憩のために確保してほしい、という主催者の意図によるもので、しっかり休憩をとることが促されました。また、メカニックのサポートが受けられない分、ライダーはより慎重なライディングが求められるようになりました。
エアバッグベストの義務化
ダカールラリーの二輪・ATV部門において、エアバッグベストの着用が義務化されました。MotoGPなどでもクラッシュによるケガを軽減するため、エアバッグベストが導入されていることもあり、転倒時の安全面強化に向けた変更となります。
2021→2022
超軽量ヘルメットの使用禁止
ヘルメットの最低重量が1.1kgに定められ、規定以下の重量のヘルメットは使用が禁止されました。耐久性を考慮した判断です。
③マシンに関するレギュレーション
2020→2021
リアタイヤの個数制限
大会中に使用できるリアタイヤは6本以内という制限が追加。全ステージ合わせて同じブランドの同じモデルの使用も規定されています。これは昨今のバイクの進化に伴った変更。バイクのスピードがあまりにも上がってしまい、まるでモトクロスレースのようにスピードを競い合う傾向が見えたため、安全面の向上、そしてダカールラリーが求める忍耐力とスタミナに焦点を戻すための変更が行われました。
ピストン交換を2回行うとタイムペナルティー
元々エンジンをいじるとタイムペナルティーが科されるルールがありました。これに加え、ピストン交換を2回行った場合、エンジンなど他の部分をいじらない場合でもタイムペナルティーが科せられるようになりました。これもバイクの進化を考慮したルール変更です。
2021→2022
ピストン交換時に1度エンジンの開封が可能
2022年では、ピストン交換時にピストンリングとピストンピンのみを交換するだけであれば、エンジン上部を開けることができるようになりました。ただしエンジン上部を開けることができるのは、審査員立会いのもとで1度だけ。規定に沿った行動を、厳しく管理されています。
④こんなのあり? 変わったレギュレーション
2022→2023
アマチュアライダーには、毎日賞金が与えられるようになりました。ダカールラリーに参戦するアマチュアライダーを讃えるために追加されたルール。賞金によって、完走に向けた気持ちを高めて欲しいという思いから設定されました。
特集Index
1.Monster Energy Honda Team2022年の戦いを振り返る
3.ダカールをもっと楽しむために Part1:あなたの知らないダカールラリー
4.ダカールをもっと楽しむために Part2:実はおもしろいレギュレーション学