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【ダカール2023特集③】あなたの知らないダカールラリー

ダカールラリーに参戦しているライダーやチームは、過酷なレース期間をどのように過ごしているのでしょうか。ライダーの生活面からレースにまつわる疑問など、気になるダカールラリーのあれこれを紐解いていきましょう。

【ダカール2023特集③】あなたの知らないダカールラリー

1日最低3リットル。並大抵じゃない水分補給

ライダーは、バイクに乗りながらでも水分補給できるハイドレーションシステムを備えたバッグパック(通称:キャメルバッグ)に3リットルのドリンクを背負って走ります。3リットルという量はダカールラリーを主催するFIM(国際モーターサイクリズム連盟)の規則によって決まっており、さらに、給油ポイントに辿り着くまでにドリンクを空にしなければいけません。つまり、ライダーはレース中に最低3リットルの水分を摂っていることになります。また、ドリンクは電解質を含んだものや、水に加えて砂糖と塩を摂取することが推奨されています。1日を通して走り続けるライダーたちが消費する体力は尋常ではありません。熱中症や脱水症状を防ぐため、体調管理はルールにも定められています。



食を制するものがレースを制す! 徹底した栄養管理

ビバーク(参加者が集まるキャンプ地)にはカフェテリアがありますが、ライダーは自分たちのモーターホームで食べるため、あまり行くことはないそうです。というのも、チームによってはケアテイカーと呼ばれる調理師が栄養管理をした食事を作ってくれるからです。もちろんHondaのチームにも調理師が在籍しており、ライダーが日々を戦い抜けるよう、栄養管理を徹底しています。

また、レース中の行動食は、もっぱらエナジーバーが用いられています。ライダーによって好みがあるため、エナジーバーは各自持ち込む方式。もちろん走行中に食べる余裕はないため、ルートの途中にある給油ポイントや、規定に従って15分止まらないといけない時間帯など、限られた休憩時間で食べています。



宿泊はホテル、ではなくモーターホーム

レース期間中、ほとんどのライダーがモーターホームと呼ばれる移動式住居で寝ています。コースから30分〜1時間の場所にホテルがある場合もありますが、コース近くで泊まれる方が移動時間が短く済むのでラクなのと、備え付けのベッドでしっかり体力を回復できるため、モーターホームを選ぶライダーが多いです。Monster Energy Honda Teamの場合、ライダー2人に対してモーターホームが1台用意されています。なお、他のチームスタッフは、ポップアップテントやバンで寝ます。



実際どうしてる? トイレ問題

レース中、休憩なしで走る時間は3時間から5時間。ずっと走っているからトイレに行く時間はない、と想像しがちですが、実はトイレに行く時間はしっかり確保できています。走行中に給油ポイントが1〜2回あるため、そのタイミングでトイレを済ませます。なお、トイレらしいトイレはないため、基本は野に放つスタイルです。



そもそも会わない。ライバル同士のフラットな関係性

ライバル同士がレース中やビバーク内で会う機会は少なく、ライダー同士で仲良くなるほど交流する機会はありません。チーム移籍のニュースが流れると、ライバルチームから加入してきたライダーと元からチームにいたライダーの関係がギクシャクしないのかと、気になるところではありますが、もともと確執がない状態からのスタートということなのです。そこで会話をするかしないかは、人それぞれ。



メカニックはライダーの帰りをただ待つのみ

メカニックやチーム員がコース内に入ることはできません。そのため、ライダーがコースに出た後のメカニックらは、ビバークで帰りをただ待つのみ。あとはライダーの実力に任せるしかありません。マシントラブルが起きても手を出すことはできず、救出するかしないかの最終的な判断は、ライダーでもメカニックでもなく、オーガナイザーによって決められます。そのため、マシンが壊れて走れなくなった場合、ライダーはヘリコプターで救出され、マシンは基本的にオーガナイザーが回収します。マシンの回収の仕方は、クレーンがついたトラックで引っ張るか、トラックが入れない場所で動けなくなった場合はヘリコプターで引き上げます。実際、2017年にジョアン・バレーダ選手がケガでリタイアした際にはヘリコプターで搬送されています。

監督やスタッフも観客と同じ。ライダーの位置の確認方法

オーガナイザーは各ライダーの位置をGPSで把握していますが、チーム員はその情報を見ることはできません。そのため、日本からでも見ることができる、ネット上の情報からライダーの位置情報を把握しています。



ライダー以外はバンで移動

モーターホームを運転して移動する場合や、アシスタントカーを使って移動するなど、チームによってメカニックの移動手段はそれぞれです。Monster Energy Honda Teamの場合、チーム専用のバンを3台用意しています。基本的にコース内にメカニックは入ることができませんが、リエゾン(キャンプ地からコースまでの移動区間)でメカニックがサポートができる場合があるので、タイヤやスペアパーツなどを積んでおき、いつでもマシントラブルに対応できるよう備えています。その場合は、4人のライダーの位置に合わせて、先頭/真ん中/後方に分かれてライダーについて行くことで、ライダーに何かあってもすぐにサポートに行けるようにしています。

意外と簡易的! 給油は手押しポンプで

レース中の給油は、ドライブレーク(鈴鹿8耐などのピット作業で見る専用の給油タンク)が用意されていて一気に給油するのかと思いきや、ライダー自ら手押しポンプを使用してタンクにガソリンを入れていくという、意外と簡易的なスタイル。給油ポイントでは、砂漠のど真ん中に給油タンクが置いてあることもあれば、トラックが運んでくる場合もあり、過去には保管環境によってガソリンの中に水が入っていたりと、問題が起きたこともしばしばあったとか。一方、レース後の給油は基本メカニックが行います。

国によって異なるガソリンの質

チームが使用できるガソリンは主催者側から指定されています。レース専用のものではなく、開催国で一般的に使用されるガソリンと決められているのです。ハイオクかレギュラーか、その種類は会場によって異なります。参加者は、レース前に主催者側からガソリンの情報を教えてもらえるため、ガソリンの種類に合わせてエンジンのセッティングを変更するなど対応しています。なお、南米での開催時は国をまたいでの開催だったため、国によってガソリンの種類だけでなく、質も異なっていたようです。質の違いによってエンジンを壊すことがあるので、随時マッピングを切り替えることで対応していました。

終盤のドラマを生む、2ステージの増加

各チーム、大会に向けて事前テストを行います。コースが正式発表されるのは事前テスト後なので、テストはあくまで想定した距離をベースに行われます。2023年は前年と比べてステージ数が2つ増加。事前テストでの想定以上の距離が課される分、ライダーとマシンへの負担も増していきます。この2ステージの増加でマシントラブルが起きる……ということもなきにしもあらず。レース終盤は順位に大きな動きが見られるかもしれません。

なお、Monster Energy Honda Teamの事前テストでは、毎年距離を想定してテストを行うのではなく、毎回同じ距離でマシンテストを行っています。2ステージ増えるということは事前テストで想定した以上の距離となりますが、マシンは2ステージ増えても余裕で走りきれるエンジンスペックを持っています。



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