「大きなチャンスですし、僕にとっての転機なので、このチャンスを活かすことに集中します」
グランツーリスモで世界王者を獲得し、2025年シーズン、全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)に初参戦するイゴール・オオムラ・フラガ(26歳)に注目が集まっています。
フラガは日系ブラジル人4世として石川県金沢市で生まれ育ち、小学校卒業後にはブラジルへ渡りました。その後、ヨーロッパのシングルシーターでキャリアを積み、2022年に帰国。2024年はPONOS NAKAJIMA RACINGのリザーブドライバーを務めていましたが、スーパーフォーミュラで3度の年間王者に輝いた山本尚貴がシリーズからの引退を発表し、その後任として正式にシートを獲得しました。
2024年シーズン後のテストでは好パフォーマンスを見せ、日本人初のF1ドライバー中嶋悟氏率いるPONOS NAKAJIMA RACINGからスーパーフォーミュラに挑むことになり、世界中が注目しています。
「スーパーフォーミュラに参戦できて本当に嬉しいです。ここ数年ずっと目指してきましたが、まだ始まったばかりです。しっかりと結果を出せるよう準備していきます」
「大きなチャンスですし、良いシーズンを送ることができれば、さらに次のチャンスにつながると思います。僕にとっての転機なので、このチャンスを活かすことに集中します」とフラガは意気込みを語っていました。
フラガは、eスポーツを駆使してスーパーフォーミュラのシートまでたどり着いた異色の経歴の持ち主です。
しかしリアルレースでの実績も十分で、日本ではキッズカート部門で2連覇、2017年にはブラジルF3のアカデミークラスで年間王者を獲得しました。
2018年にはグランツーリスモの「ネイションズカップ」にブラジル代表として出場し、初代王者として世界的に名を馳せました。
2020年初頭に参戦したトヨタ・レーシングシリーズでは、のちにF1ドライバーとなるリアム・ローソン、角田裕毅、フランコ・コラピントらを破り、シリーズチャンピオンに輝きました。
しかし2020年のFIA F3では競争力に欠けるチームに所属したことで苦戦。レッドブルジュニアチームに加入し、2021年にはより競争力のあるシートを確保していましたが、コロナ禍でスポンサーが撤退した影響でレース活動を中断せざるを得なくなりました。
それでも諦めずに18ヶ月間グランツーリスモで腕を磨き続けました。
英語、ポルトガル語、そして少しのスペイン語に加えて、日本語も流暢に話すフラガが活躍の場を求めたのは日本でした。
フラガは2022年の終わりに日本のスーパーフォーミュラ・ライツ参戦を目指して帰国、B-Maxレーシングのテストに参加しました。
「以前から日本に目を向けていました。グランツーリスモは日本が拠点なので、何か見つけられるかもしれないというのは分かっていました。(コロナ禍後に)渡航制限が解除されたら日本に移住しようと決めていましたが、長く待つこととなりました!」
「日本で生まれ12年間過ごしましたが、日系ブラジル人の母が日本国籍を取得していなかったため、私はゼロから手続きを進める必要がありました。以前暮らしていた石川県金沢市は東京から離れており、環境も大きく異なっていました」
「東京でまったく新しい生活を始めましたが、日本語でコミュニケーションが取れたことは大きな助けになりました。」
2023年に参戦したスーパーフォーミュラ・ライツでは、浮き沈みのあるシーズンを過ごすことになり、勝利は菅生サーキットでの1勝にとどまり、ランキング4位となりました。
「シーズン当初のテストはウェットコンディションが多かったため、セットアップをあまり試すことができず、マシンのスイートスポットを見つけ出すのにシーズン最後の2戦までかかってしまいました」とフラガは振り返っています。
しかし、フラガは2024年はライツで2年目の参戦を選ばず、PONOS NAKAJIMA RACINGに加入してスーパーフォーミュラのリザーブドライバーとして経験を積むという異例の決断を下しました。そして2023年末には、山本尚貴が9月のクラッシュで負傷し療養していたこともあり、フラガが鈴鹿でスーパーフォーミュラのテストを行う機会を得ました。
「最初はリザーブドライバーをすることに前向きではなかったのですが、結果として多くを学ぶことができました。エンジニアやメカニックとしっかり話ができたことは大きな収穫でした」
リザーブドライバーとして1年間チームと過ごした経験が活き、2024年末に鈴鹿で再びテストを行った際は「非常にやりやすかった」と振り返ります。
そのテストでは全体5番手タイム、最終日のルーキー専用テストではトップタイムを記録しました。これにより、スーパーフォーミュラ参戦の道が開かれました。
2月に鈴鹿サーキットで行われたプレシーズンテストは雪の影響を受け、ターン2でのコースアウトもあり厳しい内容となりましたが、それでもフラガの自信が揺らぐことはありませんでした。
「もちろん、自分の能力を信じていました。これまでも多くのチャンピオンシップで厳しい状況に立たされてきましたが、その多くで結果を出してきました。すべてがうまくいけば、上位に食い込めることは分かっています。しかし、どんな状況でも確実に車を正しい動作範囲内に収めるには、まだ経験を積む必要があります」
フラガは、昨年リザーブドライバーとしてチームメイトの佐藤蓮を間近で観察してきた経験を活かし、今季は佐藤を基準に自らの成長を図る考えです。
「僕は、選手権全体という観点ではあまり深く考えていません。しかし、個人的な目標は常にトップ10に入り、ポイントを獲得することです。そして、もしマシンの競争力を発揮するチャンスが1、2回訪れた際には、最大限に活かしたいと思っています」
「蓮の走りを見て本当に驚きました。彼はブレーキをほとんど使わず、コーナーに車を投げ込んでスピードを維持するんです。多くの場合、それがうまくいきます。特に予選ではいつも攻めの走りをしていて、本当に素晴らしい走りです」と分析する。
「もちろん目標は彼に近づくことです。昨年は2台とも予選で競争力があったので、彼に近づくことができれば、ポイントを獲得できるチャンスがあることは分かっています」
今季のスーパーフォーミュラには複数のルーキーが参戦していますが、フラガは自分に与えられたチャンスの大きさを理解し、それを最大限に活かそうと決意を新たにしました。過去の成功とテストでの速さから、ルーキー・オブ・ザ・イヤー争いでも有力な存在になることが期待されています。