「今年もチャンスをいただけて2年目のシーズンを迎えることができました。絶対にシリーズチャンピオンにならなければならないという意気込みで今シーズンを迎えています」とFIA-F4選手権に参戦する野村勇斗(のむら ゆうと)は言う。
野村は2021年度SRS-F(鈴鹿サーキットレーシングスクール-フォーミュラ。現 HRS鈴鹿=ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿)を受講し、成績優秀者としてスカラシップを獲得。22年はフランスF4選手権に挑戦してシーズン2勝を記録した。
23年はフランスF4と同等の規格で開催されている日本のFIA-F4選手権に転進し、鈴鹿サーキット以外のコースを走った経験がないままシリーズを戦い、ランキング4位に食い込んだ。そして今、2シーズン目となるFIA-F4選手権で経験を積んでいる。
今年のFIA-F4選手権では、9年ぶりに新型車両が導入されている。旧型を引き継いだ規格ではあるものの、全く別の車両を操ることになった時、野村はなにを感じたのだろうか。
「エンジンの馬力も上がりましたが、(安全装備が充実して)車重が重くなった結果、マシンの動きは全体的に鈍くなった印象があります。ハイスピードコースではあまりその影響を感じませんが、スポーツランドSUGOのようなテクニカルコースでは、インフィールドなどで動き方が違うように感じられて操作が難しいです」
今季の野村のチーム体制は昨シーズンと同じではない。2024年はホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)の活動基盤がB-MAX Racing Teamに変更となった。メンテナンス体制が変わったこと自体に特に違和感はないと野村は言うが、レースへの取り組み方は変わったと認める。
「昨年も今年も、申し分ない完璧な体制でレースができています。今年は新しい体制になって1年目ではありますが、きちんと結果を出さないとこの先につながらないと感じています。昨年はチームメートに先輩方もいたのでこうした気持ちにはなりづらかったのですが、今年は2年目です。シーズン当初に思い描いたように動けているか自分では分かりませんが、チームを引っ張るくらいに頑張らなければいけない立場だという責任を感じています」
車両やメンテナンス体制が変わる中、野村はこの大きな変化をうまく受け止め、自らの成長に結びつけた。その成長は取り組む姿勢に現れている。昨年は車両に対して受け身のレースになることが多かったが、今年は自分の考えをセッティングに盛り込むようになった。
「昨年と比べて成長したと感じることは、セッティングに対する考え方です。昨年までの旧型車両は同じチームで9シーズンも走り込んでいたため、セッティングはだいたい仕上がっていました。だから私も、出来上がったセッティングにはあまり積極的な変更はせず、微調整くらいしか手を加えませんでした。でも今年は車両もメンテナンス体制も変わったので、セッティングを一からどんどん試しているという状況です。その過程でセッティングを自分の頭で考えるようになりました。クルマのメカニズムも、昨年まではうやむやにしていた部分がありましたが、今年は完璧とはいかないまでも理解を深めています。エンジニアとコミュニケーションをとり、話し合う中でひらめいたりすることもあって、セッティングを詰めていく点で大きく成長したと思います」
近年、若いドライバーはシミュレーターを駆使しており、現実のサーキットを走る以外の時間にバーチャルサーキットを走り込んで練習を重ねる者も少なくない。しかし野村はシミュレーターを持たず、バーチャルの練習はしていない。
「大学にも通っているのであまり時間がありません。元々高校に通っていましたが、フランスでレースをするためにいったん通信制高校に転校しました。帰国後はもとの高校に戻って、今年大学に入学し、経済学部で学んでいます。普段は大学に行き、サーキットで練習やレースがある時は現場へ行くという生活を送っています。空いた時間、例えば学校が終わった後にはアルバイトをしたり、自分が在籍していたカートチームを手伝ったりしています」
フランスから帰国し、日本で2年目のシーズンを迎えた今、野村はFIA-F4選手権シリーズチャンピオンを目標に掲げる。その先には上位カテゴリーのスーパーフォーミュラ・ライツ(SFL)や、国内トップフォーミュラのスーパーフォーミュラ(SF)が視野にある。
「今年、認めてもらえるだけの結果を残して、来年はSFLに上がりたいです。SFLのレースは予選から全部チェックしていますし、SFもレースを観て勉強しています」
一方で野村は、ヨーロッパでレースをする夢も抱き続けている。SFLやSFを勉強しながらも、F1ばかりかその下位カテゴリーであるF2やF3についても情報収集は怠らない。そこには意識する選手もいる。
「同年代の選手がヨーロッパで活躍していると、自分も頑張らなくてはという気持ちになります。最近で言うと、今年F2に出ているアンドレア・キミ・アントネッリや今年F1に出たオリバー・ベアマンは、自分とほぼ同じ年齢なので負けてはいられないぞと思っています。アントネッリ選手とは1回だけ同じレースでバトルしたことがありますが、世界のレベルの高さを痛感しました。彼らの活躍を見ていると、自分も早く結果を出してヨーロッパでもう1回レースをしたいと思いますが、焦りは全くありません。絶対また彼らと一緒にレースをするぞ、いつか行ってやるぞという気持ちでいます」
プレッシャーに押しつぶされてもおかしくない状況にいる野村だが、持ち前のメンタルの強さが武器になっているようだ。
「予選前などはもちろん緊張しますし『まずいな、ミスしたらどうしよう!』という考えが頭をよぎることもあります。けれども、なぜかマシンに乗り込むと落ち着いていつもの感覚に戻り、集中が高まって緊張は消え『やってやるぞ! 自分の実力を最大限発揮して走るぞ!』という気分になります。そういう意味でメンタル面には自信があります」
シーズン全7大会中4大会を終えた段階で、野村はチームメートの洞地遼大に僅差で続く総合ランキング2位にいる。シリーズチャンピオン争いはいよいよ終盤戦を迎えることになる。