10年前、当時15歳だったガブリエル・マルセリは、トライアルキャリアの中でも最も過酷な試練に直面していました。不運な事故により深刻な怪我を負った彼は、一時自らの進むべき道に疑問を抱くほどでした。
「本当に、本当に大きなクラッシュでした。顔から着地してしまい、顔のほぼすべての骨を折ったんです。歯も鼻も顎も、頭蓋骨も背骨も。バイクに再び乗るのは本当に、本当に辛かったです。あの時は『もう無理だ、これは自分にはあまりにも過酷すぎる』と本気で思っていたことを覚えています。でも1〜2ヶ月経つと、バイクに乗りたくてたまらなくなったんです。それで再びトライアルバイクにまたがりました。」
二輪の世界からそう簡単に離れられるはずもなく、若きスペイン人ライダーは見事な復活を遂げました。
「当時はまだ15歳で、お金を稼いでいるわけでもありませんでした。ですから父にとっては非常に大変な時期だったと思います。今のようにプロとして、これが自分の未来だ、自分のやりたいことだ、と確信している状況とは違います。3〜4ヶ月バイクから離れた後、簡単なウォームアップをしてみたところ、正直そんなに悪い感触ではなかったんです。そしてレースに出場し、勝つことができました。本当に、本当に格別な瞬間でした。」
純粋な情熱と不屈の精神でマルセリは復活を果たし、2019年にはトライアル世界選手権Trial2クラスとヨーロッパ選手権でタイトルを獲得。そして2022年、その努力が実を結びます。現チームマネージャーの藤波貴久氏が以前務めていたライダーポジションを継ぐ形でRepsol Honda HRCと契約を結び、36回の世界チャンピオンという伝説的記録を持つトニー・ボウのチームメイトになりました。
「トニー・ボウをチームメイトに持つということは、最高の存在と日々時間を共有できる、ということです。彼と戦うのは、まるで壁に向かって挑むような感じです。本当に、本当に彼に勝つのは難しい。でも今は、彼がこれまでやってきたこと、その動き、そのすべてがいかに難しいか、よく分かります。他のライダーには到底できないことだと痛感します。だからこそ、自分自身を毎日、限界まで押し上げてくれる存在です。きっと他のライダーたちにとっても、自分をさらに成長させてくれる貴重な刺激になっているはずです。」
故郷のガリシアで4歳の頃から二輪に親しんでいたマルセリにとって、いつの日か世界チャンピオンレベルの舞台で戦うことは単なる夢物語ではありませんでした。
「二輪に初めて乗った記憶は、たぶん2004年頃だったと思います。ガリシアの自宅の周りや庭で走っていたことを覚えています。初めてトライアルバイクに乗ったのは2009年で、バイクを始めてから5年後だったと思います。モトクロスから始めて、その後エンデューロ、そしてトライアルに移りました。父が庭に丸太や岩を置いてくれたのを覚えています。まだとても小さなものでしたが、そこで父がマインダー(補助者)としてついてくれて、一緒に練習していました。」
2023年にはX-Trial、 TrialGPの両シリーズで総合ランキング3位、さらに昨年はTrialGPで準優勝と、激しいシーズンを戦い抜き素晴らしい成績を収めています。ライダーたちにとってシーズンは非常に厳しいものとなります。世界中を転戦しながら競い合い、さらにバイクでのトレーニングに多くの時間を費やします。レースは最大5時間にも及ぶことがあり、体力だけでなくメンタル面での準備も必要とされます。
「メンタル面では、現在特別なトレーニングはしていません。ただ毎レースでの集中力の維持を心掛けています。でも簡単なことではありません。というのも、スペイン選手権、インドア競技の世界選手権、アウトドア競技の世界選手権と、年間3つのチャンピオンシップを転戦しているからです。レース間の移動も大変で、時には同じ週に別の場所で2つのレースがあることもあります。たとえば数週間前はフランスでレースして翌日にはイギリスでレース、なんてこともあり、かなりストレスになります。なので、出たいレースであっても出られない時もありますが、これは皆にとっても同じ状況です。」
トライアル競技とは別に、マルセリの四輪に対する情熱は絶大です。愛車のカスタマイズやシミュレーションレーシングについて語る彼は、この上なく輝いていました。
「トライアルから頭を切り替えるには、車いじりが一番です。エンジンを触って、車を整備し、走らせるのが大好きです。ゲームも好きで、シミュレーターも持っています。今はあまり使っていませんが、シミュレーターでたっぷり運転を学んでから、実車にも応用しました。」
当然ながら、彼の目標はこの競技、最高峰の舞台で世界チャンピオンになることです。そして2027年までRepsol Honda HRCと契約を交わした今、無敵の王者トニー・ボウを打ち破らなければなりません。あの事故の後、人生を立て直すために注いだ努力は、彼が決意に満ちた、強靭な精神力を持つスポーツマンであることを示しています。いつの日か、必ずや、彼は表彰台の最上段に立つことでしょう。
「トライアルは、私にとって人生そのものです。今の私の人生のすべてがトライアルを中心に回っています。友人も、そして私を取り巻くすべてのものがトライアルに焦点を当てています。ですから、それらすべてをまとめて、『人生』ですね。」