多くのレーサーにとって、Hondaファミリーの一員であることは大きな栄誉と考えられますが、イタリア出身のフランチェスカ・ノチェラにとっては、それ以上に特別で感動的な出来事でした。
「キャリアの中で最高の出来事でした。電話がかかってきた時、おもわず泣いてしまいました。HRCから彼らのチームに参加してほしいと直接電話が来るなんて、そうあることではありませんから。」
2024年、31歳のイタリア人である彼女は、FIM E-Xplorer World CupにTeam HRC として参加。Monster Energy Honda Teamのトーシャ・シャレイナ選手とチームを組み、Honda CR ELECTRIC PROTOを駆ることになりました。このコンビネーションは素晴らしい結果をもたらし、日本の大阪で開催された第1戦からチームランキングのトップに立つ活躍を見せました。シーズン中、ノチェラは女性カテゴリーのタイトルを狙える位置にいましたが、スイスのクラン・モンタナでの最終戦に、肋骨が折れているのに気付かないまま参戦していました。不屈の精神と決意で痛みを乗り越え、女性カテゴリーで見事なデビューシーズンを締めくくる、準優勝を果たしました。
クラン・モンタナでのレースは、困難な状況下でもノチェラがいかにタフであるかを証明する一つのエピソードに過ぎません。彼女は現在トラック上で世界のトップ選手たちと戦っていますが、数年前にはがんと診断され、レース以外でも大きな戦いと直面し、乗り越えてきました。
「診断を受けた時は、前向きな気持ちを保つのが本当に難しかったです。このスポーツが唯一私を前向きにしてくれました。本当に辛い時期でしたが、自分自身にどれだけの力があるかを証明できたと思います。身体がどんな状態で、再びリラックスしてライディングを始められるまでにどれだけの時間が必要だったかを考えると、本当にクレイジーでした。この期間を通じて、バイクに乗ることが自分にとって何を意味するのか、そしてそれこそが自分のやりたいことなのだと、本当に理解することができました。辛い時期でしたが、今私はここにいて、生きるということの本当の意味も理解しています。」
大きな挫折を経験しながらも、彼女は栄光を獲得し続けており、家族のキャビネットはこれまでの成功を示すトロフィーで溢れています。イタリアのモトクロス選手権で4度のチャンピオンに輝いた彼女ですが、父親の勧めで初めてバイクに乗った時は計画通りにはいかず、あやうくレーサーになることを諦めるところでした。
「姉がバイクで遊んでいるのを見て、私も試したくなってバイクに飛び乗ったのですが、足を火傷してしまったんです。数カ月後に再挑戦してみると、本当に楽しくなって、レースを始めるようになりました。その頃キャンピングカーで旅をしながら家族と一緒に過ごした時間は、素晴らしい思い出です。」
健康問題がモトクロスに及ぼす影響を考慮し、彼女はキャリアの方向転換を決意し、エンデューロに挑戦しました。そして、イタリアンエンデューロカップの女子カテゴリーで3度の優勝を果たし、世界レベルのエンデューロGP でも成功を収めています。今年はさらに過酷なインターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ(ISDE)にも参加し、イタリアチームを女子トロフィーカテゴリーで5位に導き、個人順位では9位を獲得しました。
「イタリア選手権で4度優勝しましたが、そこに向けてどれだけ努力してきたかを考えると、目標を達成できたことが計り知れないほど特別なものに感じられます。
エンデューロに転向したのは、モトクロスで競争力がなくなったと感じたわけではなく、ただリセットが必要だったからです。実際、その選択は正解でした。2023年にはエンデューロGPで3位という、キャリアのハイライトの一つを経験できましたから。」
ベルガモ州出身、絆の深い家族の一員である彼女は、身近な人々から多くの支えを受けてきました。その中には、愛犬のオーストラリアンシェパード「アスティ」も含まれており、病気から回復の過程で、彼女に多くの癒しを与えてくれる存在でした。
「すべてがうまくいっているときは、周りに多くの人がいます。困った時には必ず助けてくれる頼もしい友達もいます。でも、私にとって何よりも大切なのは家族です。本当に感謝していて、自分がどこから来たのかを決して忘れないでいたいです。」
バイクへの情熱が止まらない彼女は、過去の栄光に安住することなく、さらなる挑戦を目指しています。その一つが、かの有名なダカールラリーへの挑戦です。
「挑戦が大好きですし、二輪の経験をもっと積んでいきたいので、ダカールに出場できたら最高ですね。バイクに乗ることを一言で表現するなら『自由』です。それがまさにバイクに乗っているとき感じることです。ただバイクと一緒にその時間を楽しんでいるだけ。それが他のスポーツでは感じられない感覚なんです。」