
2026 FIM 世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第47回大会
真夏の鈴鹿で幾度となく繰り広げられてきた、世界最高峰ライダーたちの魂を削る8時間の戦い──鈴鹿8耐が、2026年も新たな歴史を刻もうとしている。開催時期を7月上旬へと移し、より速く、より過酷な戦いへ挑む第47回大会。その中心にいるのは、前人未到の8勝目を狙うHondaの絶対的エース、高橋巧だ。そこへ、6度の世界王者ジョナサン・レイがHondaへ“帰還”。さらにMotoGPへと続くHonda育成の象徴、ソムキアット・チャントラが加わり、5連覇を目指すHonda HRCの布陣が完成した。
王者の経験、記録を打ち立てた速さ、次代を担う才能──それぞれの思いを背負ったライダーたちが、世界で最も特別な耐久レースに挑む。鈴鹿8耐は今年も、単なる勝敗を超えた熱きドラマの舞台となる。
■文:佐藤洋美 ■写真:赤松孝、Honda ■協力:Honda
Web版 Mr. Bike コラボレーション記事
2026 FIM 世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第47回大会(以下、鈴鹿8耐)が、今年もやって来る。これまで7月下旬から8月上旬に開催されてきたが、年々厳しさを増す暑さを考慮し、ライダーや観客の安全を最優先に、今年は7月5日の開催へと変更された。
日本最大のバイクイベントとして知られる鈴鹿8耐は、世界耐久選手権(EWC)の一戦として開催される。Honda、YAMAHA、SUZUKI、Kawasakiの国内メーカーがワークス体制で勝利を目指し、ロードレース世界選手権(MotoGP)、スーパーバイク世界選手権(WSBK)、全日本ロードレース選手権(JRR)に加え、アメリカ、イギリス、アジア各国のトップライダーが集結する。その多彩なチーム編成と豪華なライダーラインアップは、海外で開催されるEWCラウンドとは異なる独特の魅力を持つ。近年は参戦チームやライダーの顔ぶれに変化が見られるものの、その注目度の高さは今なお変わらない。
鈴鹿8耐47年の歴史の中で、常に大きな注目を集めてきたのがHondaワークスチームのラインアップだ。その理由は、Hondaがこれまで31勝という圧倒的な実績を築いてきたからにほかならない。ライバルチームはもちろん、鈴鹿8耐ファンにとっても、「誰がHondaワークスのシートを得るのか」は毎年最大の関心事となっている。
近年、その中心にいるのがHonda HRCのテストライダー、高橋巧だ。鈴鹿8耐最多優勝記録となる7勝を誇り、現在もその記録を更新し続けている。今年もチームの中心となってマシン開発を進めている。
高橋は2008年にJRR GP250クラスで史上最年少チャンピオンを獲得し、2017年にはJSB1000チャンピオンに輝いた。さらに、2019年に鈴鹿サーキットで記録した2分3秒592のJSB1000コースレコードは、現在も破られていない。
2020年にはWSBKへ参戦し、2021年から2022年にはブリティッシュスーパーバイク選手権(BSB)へ挑戦するなど海外で経験を積んだ。その間も鈴鹿8耐への参戦は継続し、ミスのない安定した走りと確実なレース運びで絶対的な信頼を築いてきた。高橋のレースキャリアはHondaのCBRシリーズとともに歩んできたものであり、現在のHondaロードレース活動を支える中心人物の一人となっている。


鈴鹿8耐は真夏に開催されるため、世界的な気候変動による猛暑の影響で、ライダーへの負担は年々大きくなっていた。3人体制でも走り切ることが困難といわれる過酷なレースだが、2025年、高橋はMotoGPライダーのヨハン・ザルコと2人体制で優勝を果たした。
レース後の記者会見では、表彰台に上がったライバルチームのライダーたちが、その偉業を称え、大きな拍手を送る場面も見られた。
MotoGPの過密なスケジュールの中で走り切ったザルコは、「過酷な戦いだったが、また挑戦したい」と鈴鹿8耐の魅力を語り、2026年大会への参戦を約束していた。
そして、もう一人のライダーとして名前が挙がったのがジョナサン・レイだった。HondaのWSBKマシン開発テストライダー就任が発表された時から、レイの鈴鹿8耐参戦は大きな話題となっていた。
レイがHondaで鈴鹿8耐を戦うことは、多くのファンにとって特別な意味を持つ。なぜなら、彼のルーツがHondaにあるからだ。
BSBでは清成龍一のチームメイトとして活躍した後、スーパースポーツ世界選手権を経て、2009年からWSBKへ参戦。イタリアで初優勝を挙げ、2014年までHondaを駆った。タイトルには届かなかったものの、Hondaのエースライダーとして世界中のファンから高い人気を集めた。さらにMotoGPにも代役参戦を果たしている。
鈴鹿8耐では2012年にF.C.C. TSR Honda Franceから参戦し優勝。英国人として初めて鈴鹿8耐を制したライダーとなった。6度のWSBKチャンピオンに輝き、数々の記録を打ち立ててきた王者レイ。しかし、2025年シーズンはフィリップアイランド、チェコと立て続けにクラッシュを喫し、負傷に苦しむ厳しいシーズンとなった。そして、その年限りで現役引退を決断する。
それでも、レースへの情熱が消えたわけではなかった。HondaからWSBKマシンのテストライダー契約のオファーを受け、その契約にはマシン開発だけでなく、鈴鹿8耐参戦も含まれていた。


レイが、鈴鹿8耐参戦への想いを語った。
「Hondaに戻ってきたことは、僕にとって原点回帰であり、とても特別な意味があります。Hondaでキャリアを築き、多くの経験を積ませてもらいました。そして引退を決断した時から、鈴鹿8耐は計画の一部でした。昨年はケガに苦しみましたが、8耐で復帰することがリハビリに取り組む大きなモチベーションになりました。回復は順調でコンディションも良く、しっかりと走れる状態まで戻っています。
高橋とはHonda時代にパーティーなどで顔を合わせたこともありますし、鈴鹿8耐の表彰台でチームは違うが、一緒に上がったこともあるから、昔から知っていた。彼は本当に速いライダーであり、鈴鹿8耐で最も成功しているライダーで、これ以上ないチームメイトだと思います」
一方、高橋もレイへの信頼を口にする。
「レイを強く意識したのは、2013年に清成さんと鈴鹿8耐を走った頃です。その後はWSBKで別メーカーのライダーとして活躍していたので、一緒に走る日が来るとは想像もしていませんでした。レイは鈴鹿8耐優勝経験者であり、WSBKで数々の記録を築いたライダーです。これ以上ないチームメイトです」

5月に行われた2日間の鈴鹿8耐事前公開テストでは、高橋とレイが初めてHonda HRCのライダーとして鈴鹿を走行した。ザルコはMotoGPとのスケジュールが重なったため参加していない。
初日は初夏を思わせる好天に恵まれた。午前中のセッション1では、高橋とレイが揃ってピットアウトし、高橋がレイを先導する場面も見られた。二人はともに2分5秒台を記録し、1、2番手につける。このセッションで5秒台に入れたのはHonda HRCの2台だけだった。
午後のセッション2では気温が上昇したものの、爽やかな風が吹くコンディションとなった。Honda HRCは2分5秒258で再びトップタイムを記録。ライバル勢もタイムを上げ、上位4台が2分5秒台に並んだ。
夕方のセッション3ではHonda HRCが2番手。続くナイトセッションとなったセッション4では4番手タイムを記録し、初日を終えた。
2日目は朝から強い日差しが照りつけた。セッション5ではレイが2分4秒773をマークしてトップタイムを記録。上位3台が2分4秒台へ入れるハイレベルな争いとなった。最後のセッション6では、高橋が2分5秒066でトップタイムを記録し、Honda HRCは充実した内容で2日間の公開テストを締めくくった。
高橋は上々の感触を得たようだった。
「レイは久しぶりの鈴鹿で、しかもHondaの8耐マシンだったにもかかわらず、すぐにアジャストしてくれました。最初は先導しましたが、正直その必要はなかったと思います。すぐに好タイムを記録するので、こちらがプレッシャーを感じるほどでした。世界チャンピオンのレベルの高さを改めて実感しました。昨年のザルコ選手にも同じことを感じましたが、本当に不安要素がありません」
レイも手応えを感じた。
「タイヤメーカーも違えば、ヨーロッパとは異なる特性を持つサーキットなので、自分でもここまで早く2分4秒台へ入れるとは思っていませんでした。高橋がベースセットアップで素晴らしい仕事をしてくれていたので、満足できるテストになりました」
高橋はマシン開発について「常に100%のマシンを目指してテストしていますが、そこへ到達することは簡単ではありません。ただ、昨年からマシンの基本パッケージが大きく変わっていないこともあり、着実にセットアップは進んでいます。レースウィーク最初のテストでは、さらに納得できる仕上がりにしたいと思っています」と言う。
レイは耐久レースの難しさについても触れた。
「レース結果はさまざまな要因で変わります。だからこそ耐久レースでは安定して走り続けることが何より重要です。そして運も味方につけなければなりません。Honda HRCは鈴鹿で数多くの勝利を重ねてきた特別なチームです。その歴史と伝統に、自分も少しでも貢献できればと思っています」

このテストの後、ザルコがMotoGP第6戦カタルニアで発生した多重クラッシュにより負傷し、鈴鹿8耐参戦を断念することになった。代役には、WSBKのソムキアット・チャントラが起用された。
チャントラはHondaの育成システムを経て、Moto3、Moto2、MotoGPへとステップアップしてきたライダーだ。鈴鹿8耐への参戦経験はないが、鈴鹿でのプライベートテストでは十分なタイムを記録しており、さらにマレーシア8時間耐久への参戦経験も持つ。Honda首脳陣も「不安はない」と、その実力に信頼を寄せている。
鈴鹿8耐4連覇中、そして5連覇を目指すHonda HRCは、高橋巧、ジョナサン・レイ、ソムキアット・チャントラの3人体制で王座防衛に挑む。


世界耐久選手権(EWC)にフル参戦するF.C.C. TSR Honda Franceは、アラン・テシェ、コロンタン・ペロラーリ、ジョン・マクフィーのレギュラーラインアップで鈴鹿8耐にやって来る。
TSRは鈴鹿8耐で3度の優勝を誇る名門であり、ジョナサン・レイが2012年に鈴鹿8耐初優勝を飾ったチームでもある。EWCでは2度のシリーズタイトルを獲得しているトップチームだが、今季は速さを見せながらも結果に結び付かず、現在ランキング12位。しかし、鈴鹿8耐事前テストでは常に上位タイムを記録し、2分4秒台にも入れており、優勝候補の一角に数えられている。
また、SDG Team HARC-PRO. Hondaは、全日本ロードレース選手権(JRR)で数多くのチャンピオンを輩出してきた名門チームだ。高橋巧もこのチームからJSB1000チャンピオンとなり、鈴鹿8耐優勝も経験している。また、近年はアジアロードレース選手権(ARRC)にも参戦し、アジアでも存在感を高めている。
2024年には國井勇輝がJRR ST1000とARRC ASB1000のダブルタイトルを獲得。今季はJRR JSB1000クラス参戦の國井勇輝、JRR ST1000クラス参戦の名越哲平、ARRC ASB1000参戦の阿部恵斗という布陣で挑む。昨年も同じメンバーで参戦し、表彰台争いを繰り広げて4位に入った。鈴鹿8耐では3勝を挙げており、今年も優勝候補の一角を担う。


Honda Asia-Dream Racing with Astemoは、ARRC ASB1000クラスに参戦しているナカリン・アティラットプワパットを起用する。
ナカリンは昨年、JRR ST1000とARRC ASB1000の両シリーズを戦い、JRRではランキング6位、ARRCでは3勝を挙げ、ランキング2位を獲得した。今季はARRCに専念し、現在ランキング4位につけている。
さらに、モハメド・アデナンタ・プタラとカイルール・イダム・パウィが加わる。ARRC ASB1000参戦中のアデナンタは現在、ランキング7位。SS600のカイルールはランキング11位につけている。これからのアジアロードレース界を担う若き才能が結集し、上位進出を目指す。


Honda HRCは、世界のトップライダーを招集したワークス体制で大会5連覇という偉業に挑む。
F.C.C. TSR Honda Franceは、EWCを代表するトップチームとして、鈴鹿制覇とシリーズランキング巻き返しを狙う。
SDG Team HARC-PRO. Hondaは、日本を代表する名門チームとして培ってきた伝統と実力を武器に、再び表彰台、そして優勝を目指す。
Honda Asia-Dream Racing with Astemoは、アジア各国で育った若きライダーたちが力を結集し、世界の強豪へ挑戦する。
それぞれ異なる使命と目標を胸に鈴鹿へ集うHonda勢。その戦いは、単なる8時間の耐久レースではない。ワークスの威信、EWC王座への戦い、日本最高峰JRRの意地、そしてアジアロードレースの未来──それぞれの思いを乗せたマシンが、夏の鈴鹿を駆け抜ける。
2026年鈴鹿8耐。今年もまた、世界最高峰のライダーたちによる熱いドラマが、鈴鹿サーキットで幕を開ける。
