いまさら聞けない!? INDY500 ルール&キーポイント 8選 2022年版
5月29日(日本時間:5月30日)に決勝レースが行われるINDY500。2022年の新ルールやインディカー・シリーズならではのキーポイントを8つまとめました。
1. INDY500の予選
インディカー・シリーズのオーバルコースでの予選は、1台ずつがコースを占有してタイムアタックを行うシングルカー方式を採用しています。通常は2周連続アタックでの平均スピードでスターティングポジションが競われますが、INDY500だけは伝統に則り、1台ずつが連続4周のアタックを行う予選とされています。インディのコース全長は2.5マイルですから、10マイル=約16.09キロメートルをどれだけ速く走るかを競う予選方式になっているのです。
予選が週末の2日間に渡って行われるのもINDY500ならではです。2009年まではプラクティス開始から決勝レースまでが20日間以上に及び、予選は2週末4日間に渡るものでしたが、参戦経費の高騰を防ぐためにプラクティス、予選ともに走行日数は大幅に減らされています。
2. 予選新ルール
今年で第106回目の開催を迎えるINDY500では、予選方式が新しくされます。昨年までは予選1日目の最速9人が予選2日目にポールポジションを争いましたが、今年は予選1日目の最速12人が、予選2日目にさらに二段階の予選を戦ってポールウイナーを決定することになりました。実力伯仲の凄まじいインディカー・シリーズですから、インディのコースを4周を走っても各ポジションの差は非常に小さいものになります。ポールポジション争いに進める枠を9から12に増やすことで、予選はさらにエキサイティングなものになりそうです。
予選1日目の土曜日、エントリーしている全員に少なくとも1回の予選アタックのチャンスが与えられます。これがいわば予選の第1ステージです。アタック順は前日にくじ引きで決定しますが、自分の引いた順番が回ってきてもマシンのセッティングをもう少し向上させたい場合や、気象コンディションがよくなるのを待つためにあえて走らないケースもあります。予選時間は正午から夕方の5時50分と、長いものに設定されているからです。
土曜日の最速12人は、翌日曜日の予選第2ステージに進む権利を得ます。ポールポジションが決定するため、この日は”ポールデー”と呼ばれます。午前中には予選第2ステージを戦う12人だけによるプラクティスセッションがあり、午後4時から45分間は、12人を上位6人に絞り込む第2ステージが行われます。ここでも全員が最低1回アタックのチャンスを与えられ、時間が残っていれば2度目、3度目のアタックを行うことも許されます。ファスト6に進んでポールポジション争いを行おうと、最初のアタックで7番手以下のスピードしか出せなかったドライバーたちが再挑戦する可能性が考えられます。ただし、INDY500のプラクティスから決勝レースまでで使用を許可されるタイヤは34セットに限られています。予選でファスト12に入ったドライバーには2セットが追加供給されるとはいえ、レースには新品7セットを残しておきたい点も考えて、アタックを敢行するか否かの決断は下されることになるでしょう。
日曜の夕方5時10分、新予選方式はファイナル・ステージを迎えます。最速6人に最低1回アタックを行うチャンスが与えられ、時間が許せば2回目、3回目のアタックを行ってよいルールはここでも同様です。30分間で最速の4ラップを完成させた者が栄えあるポールポジションを手にします。
3. エアロスクリーン
時速350km以上の超高速で戦うオーバルレースがあるインディカー・シリーズは、安全性向上のための努力を惜しまずに続けてきて、衝撃を吸収するSAFERバリア、HANSデバイスなどを導入してきました。そして、2020年からはコクピット部をチタニウムフレームとポリカーボネイトのスクリーンで覆った”エアロスクリーン”を全レースで装着することを義務付け、ドライバーの安全性が飛躍的に高められました。
インディカーでは1990年代から戦闘機のキャノピーのような安全装備に対する研究が続けられていました。F1世界選手権では2018年にHALOを使い始めましたが、それとほぼ同じ構造を持つ円状のフレームをモノコックシャシー上部に堅牢なステーで固定し、そこにスクリーンをプラスするアイディアがインディカーでは採用されました。フレームは17トンもの衝撃に耐える強度を持ち、スクリーンは2ポンド(0.91kg)の物体が時速220マイルでぶつかってきても跳ね返せる強じんさを備えています。
空気の流入量が大幅に減ったコクピットは高温になる場合もあるため、スクリーンの左右後方にダクトが設けられ、そこから取り入れた空気がパイプでドライバーのヘルメットへ強制的に送り込まれるデバイスも開発されています。
4. プッシュトゥパス
2004年からチャンプカーシリーズで使い始められたプッシュトゥパス(P2P)は、レース中の抜きつ抜かれつのバトルをより激しいものにする装備です。インディカー・シリーズでは2015年からロードコース、ストリートコースでのレースで使われてきています。
各レースでP2Pを使える長さ(150~200秒間)は、レース距離やサーキットの全長を勘案して決定されます。ドライバーたちがステアリング上のボタンを押すと、エンジンは瞬間的に約40~50馬力パワーアップされるので、ライバルをオーバーテイクする助けにできます。1回のP2P最長使用時間(15~20秒)もレース距離、コース全長によって決定されます。
P2PはINDY500のようなオーバルレースでは使用されません。
F1世界選手権が2004年から採用しているドラッグリダクションシステム(DRS)は、追い越す側のリアウイングのフラップが倒され、空気抵抗が減ってスピードアップします。それに対してインディカーのP2Pは、エンジンに装備されているターボチャージャーのブースト圧を上げてパワーアップさせ、オーバーテイクをアシストします。DRSがオーバーテイクをする側のみ使用できるものなのに対し、P2Pは前方を走るドライバーがオーバーテイクを阻止するために防御的に使用することも可能です。そうした使用法ばかりとなってはレースがおもしろくならないため、インディカーは各ラップ終了時点で各ドライバーの残存P2P時間を公表するだけとして、出場者たちが自陣営以外のドライバーがいつP2Pを使っているのかをリアルタイムで知ることができないようにしています。
P2Pを使えば当然通常よりも多くの燃料を消費しますから、燃費セーブが重要なレース展開になった場合には、序盤から使い過ぎたドライバーたちは不利に陥ります。ゴール前のバトルに備え、少しでも長い時間を残しておくのがスマートな戦い方と言えます。そしてレースが山場を迎えたとき、相手のP2P残量から使ってくるタイミングを推察し、それらに合わせて自分たちもボタンを押してパスを許さない……という戦いが繰り広げられます。なお、P2Pはスタート、リスタート後の1周は使用ができないルールです。
5. スタッガー
オーバルコースでのインディカーは左右で異なるサイズのタイヤを装着して走っています。オーバルコースには左コーナーしかないため、左側のリアタイヤを小径とし、マシンが自然に左へ曲がって行くようにしてあります。このようにタイヤの口径を違えることをスタッガーと呼び、アメリカ各地で行われているビギナー向けからインディカーまでのオーバルレース全般で採用されています。
インディカーのリアタイヤのサイズは355/45-R15で、直径はおよそ65.58cmありますが、マシン左側のリアタイヤの方が直径が0.89cm小さく作られています。
また、高速を保ってのコーナリングを安定させるため、タイヤサイズを違えた上にサスペンションのアライメントもオーバル用にマシンを左に傾けたものにしています。左右にコーナリングするロードコースであればタイヤもサスペンションも左右対称ですが、オーバルコース用インディカーは前後のサスペンション両方で右側がネガティブキャンバー、左側はポジティブキャンバーにされています。このようなセッティングのマシンでストレートを走るとき、インディカードライバーたちはやや右にステアリングを切り続けています。
6. ローリングスタート
インディカーでは走りながら加速して行くローリングスタートが採用されています。各レースのスタートは2列縦隊、INDY500だけは3列縦隊で行われます。
グリッドに止まった状態からダッシュするスタンディングスタートがインディカーで行われたこともあります。最も最近の例は、2014年のカナダ・トロントでした。その年のトロントはダブルヘッダーで、1戦目はスタンディングスタート、翌日の2戦目はローリングスタートが切られました。しかし、翌年からトロントはダブルヘッダーではなくなりました。スタンディングスタートは大パワーを後輪に急激にかけるためにマシンへの負担が大きいこと、スタートダッシュできなかったマシンがあった場合に大きなアクシデントとなる可能性があることなどから、インディカーは全レースをローリングスタートで行うようになっています。
7. ピット作業
インディカー・シリーズではどのレースでもピットストップが複数回行われ、タイヤ交換、給油、ウイング角度調整などのセッティング変更がマシンに施されます。500マイルとレース距離がシーズン中で最も長いINDY500では、5回以上のピットストップをこなさなければなりません。
ピットロード上に出て作業を行うクルーたちは、その人数が7名に限定されています。彼らは耐火スーツとヘルメットの着用が義務付けられてもいます。
7名の内訳は、タイヤ交換要員が1輪につき1名で4名、燃料補給が1名、ジャッキ担当が1名の6人に、エアロスクリーンに貼られたティアオフシートを剥がす係が1名です。ピットウォールを越えないクルーたちも、先端にパネルのついた長い棒でドライバーに停止位置を示したり、装着するタイヤを手渡して外されたタイヤを片付けたり、インパクトレンチのホースをたぐり寄せたり……と作業分担は研究され、徹底的に効率化が図られています。各チームはワークショップでもサーキットでも普段から練習を繰り返しており、レース中のピットストップはすべて録画します。失敗があった場合にその原因を究明し、改善を施すためです。
熟練したクルーたちはタイヤ4本交換、18.5USガロン(=70.03リットル)のE85ガソリン給油、そしてフロントウイングの角度調整という通常作業を、10秒以内で完了させます。
8. スポッター
インディカーレースではピット、ドライバー、スポッター(1名か2名)が双方向通信を行っています。スポッターはオーバルレースで重要な役割を果たすチームスタッフです。彼らは見晴らしのよいエリアに用意されたスポッタースタンドからコース全体を俯瞰し、走行中のドライバーにコンスタントに情報を提供し続けます。オーバルでの超接近戦では、ドライバー自身が目視で確認できるエリアに限りがあるため、スポッターが前後左右の状況をリアルタイムで知らせ続けます。「左後方から1台が接近中」、「外側(内側)の真横にマシンあり(=ライン変更は接触につながるので)」、「3台並走状態になった」、「抜き切ったのでラインを変更して大丈夫」……などと伝えることで、バトルでの優位の獲得、安全の確保に貢献しています。
アクシデントが発生した際にドライバーにそれを知らせ、現場に到達した際に進行すべき方向を指示したり、通常の走行ラインに関してアドバイスをしたり、追ってくるライバルの走行ライン傾向をあらかじめ知らせておく……など、スポッターの果たす役割は多岐に渡ります。ドライバーの精神的な安定を保つこと担う、非常に重要な仕事をしているのがスポッターです。
通常のオーバルでは1人のドライバーにつき1名のスポッターが配されますが、INDY500の舞台であるインディアナポリス・モーター・スピードウェイは巨大で全域を見渡せる場所がないため、ターン1とターン3にそれぞれ1人ずつのスポッターが置かれます。
スポッターは元々はオーバルレースだけで採用されていましたが、現在ではロードコースでもドライバーによってはスポッターを重要なコーナーにつながるストレートエンドなどに置き、指示を得ています。