
記録は破られるためにあるといいますが、トニー・ボウという存在は別格です。2025年の最新タイトル獲得により、ボウのFIM世界選手権タイトルは合計38冠(TrialGP 19回、X-Trial 19回)に到達しました。トライアルライディング界の「王者」はすでに数年前に歴史を塗り替えたものの、今もなお伝説的地位を築き続け、衰える気配はありません。
カタルニア出身のボウは2007年以来、この競技会の頂点に君臨し続けており、いまだ誰もその座を奪うことはできていません。卓越した技術とバランス感覚、そして真のチャンピオンとしての揺るぎない闘志を融合させ、二輪競技における限界を再定義し続けてきました。実際、この連勝記録を再現することはもはや誰にもできないかもしれません。トライアルは、一見不可能とも思える跳躍を含む障害コースをバイクで走破することが求められる競技です。そんなボウが駆るのはMontesa Cota 4RTです。
ボウのトライアル人生は1999年に始まりました。13歳でバイク(自転車)トライアル世界選手権を制したその年、モーターサイクルトライアルに挑戦することを決意したのです。この天賦の才を持つライダーがスペインジュニア王者に輝き(2001年)、トライアル世界選手権デビューを果たし(2003年)、そしてRepsol Honda HRCへの加入と同年に初のインドア・アウトドア両タイトルを獲得する(2007年)までに、それほど時間はかかりませんでした。
世界タイトルに加えて、ボウはスペイン国内のアウトドアトライアル選手権でも11度の優勝を果たし、さらにスペインの18回のトライアル・デ・ナシオン制覇にも貢献しています。この大会はチームではなく国を代表して出場し、2日間のトライアル競技で戦う国別対抗戦です。

これほど多くのタイトルを獲得していれば、ボウの名前は誰もが知っていてもおかしくないはずですが、実際には違います。彼の存在やトライアルという競技を知る人は多くありません。そこがまた、彼を特別な存在にしている要因の一つでもあります。彼は名声のためではなく、自分自身を限界まで追い込み、勝利する喜びのために戦っています。トレーニングへの献身と、インドアでもアウトドアでも、異なるライディング条件に適応する能力により、彼は長年にわたってライバルたちを圧倒してきました。さらに、彼の戦略的思考は他の追随を許しません。ボウにはコースを「読む」天性の力があり、どのようにライディングするのが最適かを理解しています。バイクでのポジショニング、安定性のためにどこで一時停止すべきか、ジャンプでどこから踏み切るべきかなど、彼には生まれながらにこれらの能力が備わっているようです。
2007年に初めて世界タイトルを獲得して以来、ボウはMontesa Cota 4RTと共に20年近い栄光の時を歩んできました。しかし彼自身、王座を狙う多くの若手ライダーが台頭してきていることも認識しています。「私たちは常に全力で取り組むよう努めています。ケガのケアはとても重要で、回復がより困難になってきており、そこが若い選手の最大のアドバンテージです。それでも私は、プレッシャーをかけてくる若いライダーたちと戦い続けたいと思っていまし、それこそがモチベーションの源です。」

ですが、すべてを勝ち取った者の次なる目標とは一体何なのでしょう?もちろん「勝ち続けること」です!ボウ自身、「私は常に勝たなければならないという責任を感じています。ただ現実的でもあり、いつかは終わりが来ることを理解しています。だからこそ楽しむことが大切です。振り返れば、私たちが成し遂げたことは本当に驚異的です。これからの競技人生も心から楽しみたいです」と語っています。
そしてボウは、毎戦トライアルのセクションでライディングをするのは自分であっても、素晴らしいチームなくしては今の成果は成し得なかったということを強調しています。「チームが私を信頼してくれていることは本当にありがたいことです。それは私に安心感を与えてくれます。これは私がキャリアの中で築き上げてきたものだと思います。彼らは私の信頼を勝ち取り、私も彼らの信頼を勝ち取った。これは実に素晴らしい関係だと思います。タイトルを失う可能性は常にありましたし、実際にここ数年で失っていてもおかしくありませんでした。でもそれがスポーツです。私たちは素晴らしい体験に恵まれてきました。HondaとRepsolには感謝の言葉しかありません。」

では、これまでの彼のチームメイトたちはどう感じているのでしょうか?無敵に見える選手とチームを共にするのは、決して簡単なことではないはずです。現在のチームメイトであるガブリエル・マルセリは「最高です」と断言しています。「彼と戦うのは、まるで壁に向かって挑むような感じです。本当に、本当に彼に勝つのは難しい。だからこそ、自分自身を毎日、限界まで押し上げてくれる存在です。きっと他のライダーたちにとっても、自分をさらに成長させてくれる貴重な刺激になっているはずです。」
では、この「王者の中の王者」の次なる挑戦は何でしょう?その答えは「休息」ではありません。間もなくボウは再び母国スペイン代表として、9月20日と21日にイタリアのトルメッゾで開催されるトライアル・デ・ナシオンに臨みます。その後は、10月4日に開幕する2026年のX-Trialシーズンへ突入。開幕戦は彼が暮らすアンドラで行われ、「ホーム」の観衆の前で素晴らしいパフォーマンスを披露し、願わくばまたしても世界タイトル獲得となる新たなシーズンの幕開けとなるでしょう。
ボウは次のように語ります。「トライアルには限界がありません。私が望む唯一のことは、前回よりも進化することです。世界タイトルを獲得する瞬間は、いつも特別なものです。その夜は興奮して眠れず、そしてまたもっと勝ちたいと思うのです!」
