Hondaダカールラリー挑戦の歴史 Part 3(2016-2019)
2016~2019年の戦いぶりを振り返る
ダカール、4年目の試練
ダカールラリーが大きな転換期を迎えました。2005年から勝利を分けあってきた2名のライダー、シリル・デプレとマルク・コマがそれぞれ別の道に進み、二輪クラスでは12大会振りに、誰が勝利しても新たなウイナーが誕生することになったのです。
また、ダカールラリーにとってハイライトの一つだったアタカマ砂漠のあるチリが、豪雨被害などにより通過が難しくなり、完成していたルートを再度制作し直すことになったのです。新ルートはアルゼンチン、ボリビア駆け抜ける15日間、約9000kmで設定され、新たな厳しさを見せることになりました。
復帰4年目の挑戦となるTeam HRCにとって、2015年に総合2位となったものの、届かなかった勝利への挑戦が始まりました。
Team HRCのライダーラインナップは、ジョアン・バレーダ(スペイン)、パウロ・ゴンサルヴェス(ポルトガル)、マイケル・メッジ(フランス)、リッキー・ブラベック(米国)、パオロ・セッシ(イタリア)の5名。
また、ホンダ南米チームからは、ケビン・ベナヴィデス(アルゼンチン)、ハビエル・ピゾリト(アルゼンチン)。ジェアン・アゼベド(ブラジル)、アドリアン・メッジ(フランス)4名もCRF450 RALLYでエントリーしました。
天候不順は2016年のラリーにも影を落としました。ロサリオをスタートしたラリーは、早速雨にたたられ、ステージ1がキャンセル。続くステージ2、ステージ3も雨によるコンディション悪化のため、予定されていた競技区間を短縮して行うことになりました。
アルゼンチンからボリビアへと国を跨ぎながら行われたステージ4、ステージ5はマラソンステージとして前半パートに大きなアクセントとなりました。
そしてボリビアでのステージ5は、それまでのダカール史上最も標高の高い4580メートル地点を競技区間として通過。平均して3500メートルと高地で行われたこの競技区間で、ゴンサルヴェスが総合1位、バレーダがトップと2分27秒差で総合4位につける展開。また、ホンダ南米チームのベナヴィデスもルーキーながら好調な走りで総合6位となっていました。
しかし、続くステージ6でバレーダのマシンにトラブルが発生しストップ。なんとかビバークには戻れたものの、この時点で首位と5時間以上差が開き、トップ争いから大きく後退。バレーダはこのトラブルが原因で翌日にはダカールの戦列を去ることになりました。
総合トップを維持していたゴンサルヴェスは、ステージ7で2位との差を開く快調な走りをみせていましたが、続くステージ8の競技区間で転倒。ナビゲーションアイテムにトラブルを抱え、その後ペースを落とさざるを得なくなり、2分5秒ビハインドで総合2位へ。首位を明け渡すことになりました。
続くステージ9、ステージ10は2度目のマラソンステージ。ラリー初日は気温50℃を超える猛暑の中、厳しい展開となりました。追う立場となったゴンサルヴェスを、またもトラブルが襲いました。ルート上、灌木のエリアを走行中、その枝がラジエターに突き刺さり、冷却水を失うことになりました。チェックポイント2にたどり着いた段階で、冷却水をなくしたマシンはすでにオーバーヒートを起こし、とても競技を続行できる状態ではありませんでした。
幸運だったのは、主催者が猛暑の中、競技を続行するのは危険と判断し、チェックポイント2以降をキャンセルしたことでした。ゴンサルヴェスはチームメートの力を借りてビバークへと戻りマシンを修復しラリーを続行しました。
このトラブルでペースを落とした結果、総合3位へと順位を落としたゴンサルヴェス。残すステージの数は二つ。順位をばん回すべくステージ11で猛プッシュを試みましたが、その競技区間中に転倒。負傷により戦列を去ることになりました
2016年、CRF450 RALLYを走らせた2人のダカールルーキー、ケビン・ベナヴィデスが総合4位、リッキー・ブラベックが総合9位に入る健闘を見せましたが、勝利を引き寄せることができませんでした。
ペナルティーで失速するも、底力を見せた2017年
5年目の挑戦となるダカールラリー。2016年の悪夢を振り払うようにチームは勝利に向けた準備を進めました。マシントラブルの原因を解明し、CRF450 RALLYに乗り易さを追求する進化を施し、チーム体制もさらに強化しました。
また、チームにタイトルスポンサーとしてエナジードリンクブランドを向かえ、Monster Energy Honda Teamとして2017年を戦いました。ルートも南米開催となって初めてラリーが訪れるパラグアイを加え、ボリビア、アルゼンチンを駆け抜ける約9000kmが戦いの舞台となったのです。
ライダーは、ジョアン・バレーダ(スペイン)、パウロ・ゴンサルヴェス(ポルトガル)、リッキー・ブラベック(米国)、そしてマイケル・メッジ(フランス)の4名。2016年にホンダ南米チームで活躍したケビン・ベナヴィデスも2017年はMonster Energy Honda Teamからエントリーしていましたが、事前トレーニング中の負傷で参加を取りやめることになりました。
2017年のラリーの大きな特色は、日程の半分を高地で過ごすルート設定。高温多湿のパラグアイのアスンシオンを出発すると、3日目には高地に入りました。低地では40℃を越えた気温は、高地では5℃まで下がります。ライダーもマシンも気温差と濃度の低い酸素と戦わなければなりません。
改良されたCRF450 RALLYはナビゲーション能力とスピードをあわせ持ち、戦略的な走りに磨きをかけたバレーダは、ステージ3までの間に総合2位に10分以上の差をつけました。ゴンサルヴェスは総合3位、ブラベックは総合9位、メッジも総合19位と、チーム内でのバックアップ体制を考えても理想的な体制が整っていました。
パラグアイを出発しアルゼンチンへ。そしてアルゼンチンから高地バトルの主戦場となるボリビアへと入国するラリー4日目。ここで2017年の行方を左右する事態がMonster Energy Honda Teamを襲いました。
この日の競技区間はアルゼンチン側とボリビア側で2パート制となっていました。国境付近は競技を行わないニュートラルゾーンとして通過。この場所でMonster Energy Honda Teamのライダー達は燃料を補給しました。これが主催者により「認可された場所以外での給油」として1時間のペナルティーが科されたのです。レギュレーションの解釈の違いにより生まれたものですが、ラリーの結果を左右する大きな要因の一つとなりました。
現在のダカールラリーでは、総合順位は1分、1秒の差が大きく響きます。その中で課された60分ものペナルティーがどれだけ大きなものか。それでもラリーはまだ前半。可能性は残されていました。
しかし、その道を遠ざけたもう一つの要因が天候でした。ラリーがスタートするまで、ボリビアは干ばつに悩まされ、政府が非常事態宣言を出すほどでした。ところが、ラリー一行が到着するころになると天候が一転。集中豪雨が襲い、結果としてボリビア内で行われたステージ5、6、7、8、9の5つの競技区間が、キャンセルもしくはルートの短縮化され行われる事態となったのです。
これによりラリー全体の30%ほどの競技区間が減少したことで、ペナルティー分のタイム差をばん回しきれないまま最終日を迎えることになりました。
Monster Energy Honda Teamは結果的に勝利をつかむことができませんでした。しかし2017年のラリーを振り返ると、ブラベックがステージ10で転倒により受けたマシントラブルのため戦列を去ったものの、最終的にバレーダが総合5位、ゴンサルヴェスは総合6位、メッジは総合14位となりました。
勝利には手が届きませんでしたが、CRF450 RALLYとMonster Energy Honda Teamの底力を証明しました。
ワークス参戦復帰以来、最高位タイの総合2位
記念すべき第40回目となったダカールラリー2018は、ペルー、ボリビア、アルゼンチンの3カ国を跨いで開催されました。Monster Energy Honda Teamのライダーは、ジョアン・バレーダ(スペイン)、ケビン・ベナヴィデス(アルゼンチン)、リッキー・ブラベック(米国)、マイケル・メッジ(フランス)に、ホセ・イグナシオ・コルネホ(チリ)を加えた5名。15年のダカールラリーで総合2位となり、今大会でも活躍が期待されていたパウロ・ゴンサルヴェス(ポルトガル)は、ケガのため出場を断念しました。
今大会も、前年と同じく天候に恵まれないステージがあり、標高4000メートル超えのステージ6の前半部分や、河をわたるステージ9がキャンセルとなったほか、ライダーの安全上の理由からステージ12も中止に。さらに、チームからサポートが受けられないマラソンステージ初日のステージ7も、雨の影響で滑りやすく、水たまりや道が崩れた箇所が多く点在する難コースに姿を変えていました。
大会序盤では、バレーダが好走をみせました。ダカールラリーで何度もステージ優勝を経験しているバレーダは、ステージ2で今大会初優勝。しかし翌日、総合首位で迎えたステージ3のゴール間近でルートを見失ってしまい、大きくタイムロス。総合14位へ後退してしまいます。その後、バレーダは山岳地帯から海岸線に近い砂丘群へ向かうステージ5を制すと、ボリビアの首都ラパスからウユニを目指すステージ7では転倒がありながらも再び優勝を飾り、総合3位に浮上。痛めた左ヒザをかばいながらも、悲願のタイトルを狙える順位をキープし続けますが、大会後半のステージ11の転倒時にヒザの状態を悪化させてしまい、残念ながら戦列を離れました。
チーム内でもう一人、総合優勝争いに絡む走りをみせていたのがベナヴィデスです。16年にダカールラリー初出場を果たし、ルーキーながらも総合4位に入ったベナヴィデスは、昨年は大会直前に負ったケガのために出場が叶わず。今年は2年振りの大会に闘志を燃やしていました。ステージ3では2位フィニッシュし、総合2位に浮上。さらに、ステージ6が終わった時点では、アルゼンチン人ライダーとして初の総合首位を記録します。大会後半は母国をめぐるコースで、生まれ故郷のサルタもステージ10に組み込まれていました。そのステージ10では、上位からスタートしたライダーたちの多くがミスコースや転倒などでペースを崩す厳しい展開となり、ベナヴィデスも正しいルートから外れてしまった結果、マティアス・ウォークナー(KTM)に総合首位の座を奪われ、約40分の差をつけられてしまいます。ベナヴィデスはその後もウォークナーとの差を縮めるべくハイペースで走行を続け、大会最終日のステージ14も優勝で締めくくりますが、惜しくも総合優勝には届きませんでした。
約9000キロを走破し、ベナヴィデスが総合2位。これは、Hondaの第2期ワークス参戦活動での最高位タイの記録でした。終わってみれば、ダカール覇者のウォークナーとベナヴィデスとの差はわずか16分だったため、ステージ10でのミスコースによる大幅な遅れが悔やまれる結果となりました。また、ゴンサルヴェスの代役として急きょ参戦が決まったコルネホは総合10位で、目標としていたトップ10フィニッシュを達成。砂のステージとしてはダカールラリー史上最長のステージ4では、Honda勢最上位となる7位に入り、サンド路面での強さを発揮していました。なお、ブラベックは今大会最長ルートとなったステージ13で、マシンの電気系トラブルによりリタイア。メッジはマラソンステージ初日に抱えたマシントラブルの影響で、マラソンステージ2日目の出走をあきらめざるをえなくなり、リタイアとなりました。
総合優勝を狙える速さをみせたが、あと一歩届かなかった2019年
2019年のダカールラリーはペルー1カ国での開催となりました。首都リマを出発し、全体の7割が砂漠や砂丘というルートで争われ、2輪カテゴリーには137台がエントリーしました。
Monster Energy Honda Teamは、パウロ・ゴンサルヴェス、ジョアン・バレーダ、ホセ・イグナシオ・コルネホ、リッキー・ブラベック、ケビン・ベナヴィデスの5名体制で参戦。前年のダカールでは、ベナヴィデスが最後まで優勝争いをするも、ワークス参戦復帰以来の最高位タイとなる2位でした。チームはあと一歩届かなかった総合優勝への思いを胸に、全10ステージ、約5500kmの挑戦をスタートさせました。
ステージ1ではバレーダがトップ、ブラベックは3位フィニッシュ。翌日もこの2人が速さをみせ、ブラベック2位、バレーダ3位でステージを終えました。第2ステージ終了時で、バレーダが総合1位、ブラベックは総合3位につけました。
チーム内の明暗が分かれる展開となったのはステージ3でした。8番手からスタートを切ったベナヴィデスはステージ勝者とわずか2分半の差で3位につけ、総合順位も8位から2位へ浮上します。30歳の誕生日に結果を残したうれしさをのぞかせていました。一方、バレーダは331kmのスペシャルステージ(SS/競技区間)の143km地点までは順調に進んでいたものの、深い霧が立ちこめる中、岩場の渓谷から脱出不能となり無念のリタイアを決めました。
今大会のマラソンステージはステージ4からステージ5にかけて設定されました。この2日間のステージはチームからマシンメンテナンスなどのサポートを受けずに、ライダー同士で問題を解決して走りきらなければならないもので、ダカールラリーの歴史を振り返ってみると大会の行方を左右するドラマも起きています。アレキパからモケグアへ向かうステージ4のSSは2区間に分けられ、合計405km。ブラベックが区間タイム計測ポイントのすべてで最速タイムという完全なステージウインを飾り、総合1位に浮上しました。翌日のステージ5はイロ砂丘群など道なき道を行くものでしたが、ブラベックが総合1位を守りました。シーズン前半を終え、ベナヴィデスもトップから9分差の総合6位につけていました。
後半戦の幕開け、19年大会最長のステージ6は、リエゾン(移動区間)とSSなどの合計が838kmにも及びました。太平洋沿いに広がるタナカ砂丘を含む4つの砂丘エリアを通過するルートで、上位のライダーたちが序盤のウエイポイント(WP/ルート上に設定されたGPS上の通過点)探しに苦労し、ブラベックはステージ6位、総合4位に順位を下げてしまいます。一方、ベナヴィデスがステージ2位で総合4位に浮上しました。ステージ7は濃霧による視界不良のため、スタート時間が遅れたほか、荒れた砂地を通る難しいコンディションの中、ブラベックがステージ3位になり、総合首位に再浮上しました。コルネホはチーム内ベストの走りで、ステージ勝者からはわずか2分差の2位フィニッシュを決めました。
残りステージがあと3つとなったステージ8は、通常のスタート方法ではなく、2輪、4輪の各カテゴリーの上位選手が同時に走り出す混合スタート方式で行われました。この日、ブラベックのマシンにトラブルが発生し、リタイアとなりました。Monster Energy Honda Teamの総合優勝も見据えていただけに、ブラベックは「来年は今回以上のモチベーションを持って次のダカールに戻ってきます」と語りました。さらに、ベナヴィデスにも不運が襲います。途中のWPで正しい場所を通過しているにもかかわらず、GPS機材が反応しなかったタイムロスからステージ8位に終わり、総合順位も後退。さらに3時間のペナルティーも科されてしまいます。
その後2ステージを経てリマでのゴールを迎え、Honda勢にとっての最上位はコルネホで、得意とするサンド路面のステージ5やステージ7で2位を記録したほか、総合順位争いがかかった最終ステージでも2位。自らが目標としていたトップ10圏内の総合7位でダカールラリーを終えました。ベナヴィデスはステージ8終了後に科せられたペナルティーの影響もあり、12位となりました。
なお、ゴンサルヴェスはステージ5でリタイア。MEC HRCからエントリーし、HondaのCRF450 RALLYを駆ったダニエル・ノジリアがステージ9で自身最高位となる2位フィニッシュを果たし、総合10位でした。
大会終了後、ベナヴィデスに対して科せられた3時間のペナルティーが棄却されたため、総合順位ではベナヴィデスがHonda勢にとっての最上位となる総合5位、コルネホは総合8位、ノジリアは総合11位となりました。