二輪レース部門トップが語る「喉元に突き付けられた刃」とは?
いよいよ2月10日から、マレーシア・セパンサーキットで3日間のプレシーズンテストがスタートします。2023年のHonda陣営はRepsol Honda Team(マルク・マルケス、ジョアン・ミル)、LCR Honda Castrol(アレックス・リンス)、LCR Honda IDEMITSU(中上貴晶)、という2チーム4台体制のラインアップで新たなシーズンに挑みます。
HRCレース運営室長桒田哲宏ロングインタビューの後編は、もう一人の新加入ライダーで大活躍が期待されるアレックス・リンス選手と日本人ライダーの中上貴晶選手について聞きました。また、Moto2やMoto3クラスの若手ライダーたちに関する話題にも言及しています。
・・・マルケス選手は当然タイトル獲得を目指す、ミル選手もチャンピオンライダーとして王座を狙う、というこの両選手に加え、もう一人の新たなHondaライダー、アレックス・リンス選手も非常に高い資質の持ち主です。昨年の終盤戦では、オーストラリアGPでマルケス選手たちとの僅差のバトルを制して優勝し、最終戦のバレンシアGPでは独走で勝利しました。彼に対しては、どんな期待を持っていますか?
桒田:アレックスに対しても、同様に高い期待を持っています。我々の立場からすると、いわばナイフを喉元に突きつけられているような状態といえます。マルク、ジョアン、アレックス、と優勝経験のあるライダーが3人もいる。この非常に強いラインアップでいい成績を出さないのなら、「マシンがダメなんだ」と言われてしまうわけですから、この強力なライダーラインアップはある意味で私たちを追い込んでいるともいえるのです。
でも、強いマシンを作り上げるためには、強いライダーが必要です。その強いライダーは、1人よりは2人、2人よりは3人、と人数が多い方がいいことは間違いない。マルクの高い能力は今さら言うまでもなく、ジョアンはチャンピオンライダーで、さらにアレックスも勝てるライダーであることは実績が証明しています。だから、彼らそれぞれに対して、我々は同じくらいの高いレベルで期待をしています。
その意味では、タカ(中上貴晶)も速いスピードと高いポテンシャルの持ち主です。ただ、表彰台という結果には残念ながらまだ結びついていないので、ここをクリアして初表彰台を早く獲得してほしいと我々は心から期待しています。力を合わせて一刻も早い目標の達成に向け、一丸となって取り組んでいきます。
・・・中上選手に対する日本のファンの期待は、非常に高いですからね。
桒田:そうなんです。何かの小さなきっかけですべてがうまく噛み合うようになれば、持ち味のスピードを存分に発揮できるようになるはずです。彼は今年で31歳になりますが、それくらいの年齢になると、だんだん下から若い世代の台頭が始まってくるわけです。そんな環境の中へ追い込まれることが、彼の強さを引き出す引き金になってほしいと思うし、彼ならきっとそこで本来の実力を発揮できるはずだとも思います。もちろん彼も、我々のマシンに期待をしてくれていると思います。だから、我々もタカの期待に応えることができるマシンをそろえ、これからのシーズンを一緒に戦っていきます。
・・・若い世代の台頭という話題では、2022年シーズンはMoto2クラスでIDEMITSU Honda Team Asiaの選手たちが大活躍しました。ソムキアット・チャントラ選手は第2戦インドネシアGPでタイ人ライダー初のグランプリ優勝を達成。以後もトップ争いを続けて、強烈な存在感を披露しました。また、小椋藍選手は3戦で優勝(第6戦スペインGP、第13戦オーストリアGP、第16戦日本GP)し、年間ランキング2位で終える非常に印象深いシーズンでした。
桒田:チームアジアのチャントラと藍、この2人は2023年のMoto2クラスでチャンピオン争いをできると思います。むしろ、この2人でチャンピオン争いを繰り広げてほしいくらいです。両ライダー共に、ここまでしっかりと好結果を残してきたし、これからの1年は彼らにとっても大きなチャンスだと思うんです。だから、そのチャンスをしっかりとつかみ取ってほしいと思います。勝負の世界である以上、そのチャンスをつかみ取れるかどうかが、その先のライダー人生にも大きく影響してきます。だから、さらに気持ちを引きしめてしっかりと戦ってほしいですね、あの2人には。期待しています。
昨年のレースでは、藍とチャントラが優勝を争う場面がありました(第13戦オーストリアGP:小椋―優勝、チャントラー2位)。ああいうレースは本当にすばらしいですよね。タイGPのときも、地元ファンたちのチャントラ人気はすさまじいものがありました。やはり地元出身ライダーが活躍すると、人気は一層大きな盛り上がりを見せますね。
アジアという地域を眺めわたしても、彼らの存在はレースを盛り上げる重要な要素の一つになっています。やはり、ヒーローがいるということが大切なんです。ヒーローがいないと盛り上がらない。我々Hondaとしても、アジアのファンや子どもたちのヒーローとして期待を背負えるライダーをしっかりと育て上げていきます。ですが、そうやって活躍をしていく若手ライダーたちの全員が頂点であるMotoGPへ行けることは、ひょっとしたらないのかもしれません。もちろんそうなってくれることがあくまでも理想なのですが、まずは一歩ずつ進んでいくという意味では、現在の中上貴晶に続いてゆく次世代のMotoGPライダー候補という位置付けで、藍とチャントラが今シーズンのチャンピオンシップでしっかりとスピードと結果を出してくれることを期待しています。
・・・Moto3クラスについては、いかがですか。
桒田:Honda Team Asiaのマリオ(・アジ)は、肉体的に成長してかなり体格が大きくなりました。才能あるライダーなので、2年目のシーズンもしっかりとライダーとして学習と成長を続けてほしいと思います。(古里)太陽くんも後半戦に成績が少しずつ上向いてきたので、その勢いをしっかりと伸ばしてほしいですね。チームアジアでMoto2クラスの先輩たちがチャンピオンや優勝を争うレースしているのだから、「僕たちも負けずにチャンピオン争いに加わっていくぞ」という心意気でがんばってほしいですね。Moto3クラスは毎戦激しい争いになるので、上位へ食い込んでいくのは簡単ではないかもしれませんが、がんばってほしいと思うし、彼らならできると思います。そうやって経験を重ねてゆき、やがて藍やチャントラを脅かす存在に成長してもらいたいですね。
ほかのMoto3ライダーたちも、何人ものHonda勢の選手が優勝争いや表彰台に乗って、活躍をしています。激戦が続くクラスなので、上のクラスへステップアップしていくのは簡単なことではありませんが、タイトル争いをしてチャンピオンをとればその先の展望も当然見えてくるので、がんばってほしいですね。
・・・昨シーズンのMotoGPでは欧州勢の存在感が大きかっただけに、Hondaをはじめとする日本やアジア勢の巻き返しはぜひとも期待したいところです。
桒田:我々がアジアの企業だからというわけではありませんが、アジアは二輪産業にとって大切な地域で、それだけにロードレースも文化としてさらにしっかりと定着させていきたいと考えています。我々が少しでも道筋をつけることができれば、人材も集まって成長してくれるでしょう。我々は、アジアのライダーたちを広い目で見ています。これから育ってくる若い芽を伸ばし支えていく方法や手段は、各国各地域の現地法人などとも協力しながら全体として広く考えていきたいと思っています。
これは我々HRCにとっても非常に大事なところなので、たとえばアジアタレントカップをはじめ、将来を担っていく若者や子どもたちの育成を常に考えて、地道な活動を根気よく継続しています。そして、これを将来の飛躍に結び付けていくためには、さっきも言ったとおりヒーローの存在が重要になります。
ヒーローが活躍をすれば、子どもたちも「自分たちもあんなふうになりたい」と思って憧れてくれますよね、ロールモデルとして。しかし、そのヒーローもいつかは現役活動を終える日がやってきます。そのときに、ヒーローに憧れていた子どもたちが次世代のライダーとして活躍するようになっていれば、どんどん活性化していくでしょう。それは日本だけではなく、タイでもインドネシアでも、どこでも一緒だと思います。そのためにも、Hondaとして少しでもよい製品を多くのお客様に届け、そして私たちの活動と成果を広く知っていただいて普及をさらに進めていくために、企業として責任ある取り組みをこれからも続けてゆきます。
2023年シーズンのHonda陣営は、タイトル奪還を目標に全力で戦ってゆきます。皆さまのご支援とご声援をぜひともよろしくお願い申し上げます。
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