全日本トライアル選手権

全日本トライアル選手権 2023年シーズンプレビュー

トライアルは、スピードを競う他のモータースポーツカテゴリーとは異なり、ライディングの正確性とマシンの信頼性を競う競技だ。

全日本トライアル選手権 2023年シーズンプレビュー

スタートしてゴールまで、持ち時間に遅れることなく走り、途中に現れるセクションで極力減点されることなく走破するのが、トライアル競技だ。1日に20~30ほど走るセクションでは、失点の程度によって1点、2点、3点、5点の減点が課せられ、合計の減点数で勝敗が決まる。つまり、最も減点が少ないライダーが勝者となる。現在、世界選手権ではマシンが前進を止めると5点減点となるが、全日本では後退を5点とするなど、ルールは国や大会によって多少変化するが、基本的なところは変わらない。

トライアルが誕生した100余年前にはライダーだけでなく、マシンの信頼性も試されていた。モーターサイクルそのものができたばかりで、きちんと走り続けられるかどうかがまず課題となった時代だったのだ。「トライアル=試験」というカテゴリーの名前は、この時代から受け継がれている。

いわば、モータースポーツの発祥がトライアルであり、マシンの信頼性を競う耐久レースの原形もトライアルにあったと考えていい。現在もイギリスのスコットランドでは、120年前から変わらず、7日間にわたる伝統的なトライアルイベントが開催されている。

世界選手権と銘打たれたシリーズ戦が開催されるようになったのは1975年のこと。しかし、ヨーロッパではそれ以前からヨーロッパ選手権が開催されており、実質的には1964年にそのベースができたといわれている。全日本選手権が始まったのは1973年。日本でのトライアルは比較的新しいスポーツで、1973年は日本のメーカーがこぞってトライアルマシンを開発、発売した時代と一致する。以降、全日本選手権は日本各地で開催され、ここまでに全日本トップクラスでのべ50人のチャンピオンが誕生している。


小川友幸
小川友幸

全日本トライアル選手権の最高峰クラス、国際A級スーパー(IAS)で注目したいHondaライダーが、TEAM MITANI Hondaの小川友幸と氏川政哉だ。小川は昨季、前人未到の全日本10連覇を達成。今年はもちろん11連覇&日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)主催カテゴリー史上最多となる13度目のタイトルを目指す。


氏川政哉
氏川政哉

氏川政哉は弱冠20歳。昨年の第7戦では、初めてIASクラスで優勝を果たした。小川との年齢差は倍以上だが、共通点も多い。両者は共に自転車トライアルで世界チャンピオンに輝いている(小川はミニメット、氏川はプッシンで、クラスは異なる)。さらに、若手ライダーの登竜門グランドチャンピオン大会で共に勝利を収め、共に元国際B級チャンピオン。そして2人とも三重県出身。もちろん同じチームで戦うチームメートでもある。

ライディングの安定感は経験が豊富な小川が、圧倒的に勝っている。対して氏川は、若さあふれる奔放なライディングスタイルが特徴的だ。叔父である2004年世界チャンピオンの藤波貴久(現 Repsol Honda Team監督)に言わせると、氏川の自転車時代のテクニックは、同じく自転車の元世界チャンピオンである藤波のテクニックをはるかに越えているという。その高いテクニックがオートバイでいつ完全開花するのかが、注目されるところだ。


昨季第7戦で初優勝した氏川(写真左)
昨季第7戦で初優勝した氏川(写真左)

競技に使われるマシンは、年を追うごとに競技に特化し先鋭化されたものになっている。前輪が21インチ、後輪が18インチというところはほぼ100年変わっていないが、他は時代とともに、まさに隔世の感のある変革ぶりだ。トライアルマシンからシートが姿を消し、エンジンが空冷から水冷化し、ブレーキがドラムからディスク化したのは1990年代だった。現在はフューエルインジェクションでアクセルコントロールをより確実に制御するようになり、軽量化が進んでいる。

いわゆる一般のオートバイと比べると、シートのあるべき部分が大きく下がっている。足つきを容易にして安全に悪路を抜けるためだ。タイヤはスポンジのように、くにゅくにゅと柔らかく、地面の微妙な凹凸を包み込むようにつかんでいく。チェンジペダルは変速の迅速さより確実さを求めて、足下から離れてセットされている。ブレーキ径は小さく、高速制動には向かないが、どんなコースでも確実にマシンを止める。ハンドルは片側70度ほど切れて、細かいターンもできるが、慣れないとこの大きな切れ角を使いきれずに苦労するほどだ。


小川友幸の駆るRTL301RR(2022年)。チェンジペダル、ハンドル切れ角など特徴が見て取れる
小川友幸の駆るRTL301RR(2022年)。チェンジペダル、ハンドル切れ角など特徴が見て取れる

Hondaがトップカテゴリーに用意するマシンはRTL301RR。4ストローク水冷単気筒の300ccマシン。2ストローク勢に対し、粘るエンジン特性を生かして難所を走破する。野太いエキゾーストノートは、いかにもグリップがよさそうに聞こえる。

全日本チャンピオン小川友幸と20歳の氏川政哉、TEAM MITANI Hondaの2人が乗るマシンはさらにHRCによって手が加えられ、よく見るとスパークプラグが2本ついている。より燃焼効率を追求した仕様で、ファクトリーライダーだけがライディングするスペシャルマシンだ。見た目には大差ないように思えるが、細部に渡っていろいろ違いがある。他のライダーのマシンとはもちろん違うし、小川のマシンと氏川のマシンにも微妙な差があったりするから、観戦時にはそんな細かいところにも気を配るとおもしろいだろう。


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