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SFL 2022

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.6 ~太田格之進~

jp Okayama International Circuit

「人事を尽くして天命を待つ、という気持ちですよ」と、岡山国際サーキットでの全日本スーパーフォーミュラ・ライツ(SFL)選手権最終大会(第16戦、第17戦、第18戦)を迎えた太田格之進は語った。

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.6 ~太田格之進~

2022年シーズンも残り3レースとなった段階で、シリーズチャンピオンになる可能性をもっているのは小高一斗選手と太田の2人のみ。ランキングトップの小高選手と2番手太田のポイント差は13点だが、シリーズ順位は全18レースのうち8割にあたる14戦の有効ポイントで決まる(ポイントの低い4戦分を除いて合計される)ため、太田が状況を逆転するには最終大会の3レース全戦で優勝に近い上位に入賞し、しかも小高選手の前でフィニッシュしなければなかった。

この厳しい状況の中、太田が所属するHFDP WITH TODA RACINGでドライビングアドバイザーを務める加藤寬規は、「レースは相手があってやるもの。相手を意識したら硬くなってしまうので、自分を解放する方向でベストを尽くしレースを楽しめ」と太田に助言した。



その結果、太田は公式予選でベストタイムを記録して今季6回目のポールポジションを獲得した。さらに土曜日午後に開催された第16戦の決勝レースでも、第8戦オートポリス以来となる今季3勝目をポール・トゥ・ウインで飾るとともに、ポールポジション、ファステストラップに対する1点ずつを加え、一気にシリーズポイント12点を稼いで小高選手とのポイント差を縮めた。

しかもこのファステストラップ獲得によって、太田はシリーズ最終戦となる第18戦のポールポジションも手に入れることとなった。大逆転への期待は膨らんだ。



しかし日曜日午前に開催された第17戦、3番手からスタートした太田はポジションを上げられないまま小高選手の優勝を許し、自身は3位フィニッシュに終わってしまった。この結果、優勝してポイントを重ねた小高選手が最終戦を待たずシリーズチャンピオンに輝いた。ギリギリまで追いすがった太田だったが、王座には手が届かなかった。

第17戦のフィニッシュ後、加藤アドバイザーは「意地はみせていたし、コース脇で見ていても本当にがんばっているなというのがみえた。自分の力を出し切って負けたんだったら、それはもうしょうがない。1年目にしてはずいぶん優等生だったなと思います」と太田のシーズンを振り返った。



17戦を戦い終えた直後の太田は、その落胆を隠そうとはしなかったが、ほどなく何かを振り落としたかのようにふだんの表情を取り戻した。

「レースが終わった瞬間は本当にがっかりしました。もともと厳しい状況だったけれど第16戦で勝って逆転できるチャンスが拡がっただけに、また突き放される感じがして悔しい気持ちがどっと襲ってきたんです」と太田。

「でもそこからいろいろ考えたんです。シーズン中も小高選手とはフェアな戦いをしてきましたし、何のわだかまりもありません。彼は優勝数も多いし、レースで安定してポイントを稼ぐという点を考えても、チャンピオンにふさわしい選手だ、と納得ができたんです」



確かに、2019年からSFLの前身である全日本F3選手権に本格参戦を開始したベテラン小高選手に対し、太田は今年SFLにデビューし学び始めたばかりのルーキーだ。しかしレースは結果がすべての厳しい世界であることを太田はよく知っている。

「自分の中では常に平常心、と思いながらも、正直なところシーズン中盤にチャンピオンの座がみえ始めたら、若干きばってしまった部分があったように感じます。そういうこともあって、この結果になったのかなと思っています」



昨年までFIA-F4日本選手権シリーズを戦い、今シーズンSFLにステップアップした太田に付き添い、助言しながら成長を見守ってきた加藤は、太田の1シーズンをこう評価した。

「器用だし頭がいいんでしょう。走らせ方が違うと指摘すればすぐ修正できる。また、他の人のよいところを吸収もできる。その上で冷静にレースを走れる。相手との競り合いなどにはコツみたいなものが必要です。そういう点ではまだ1年生らしいところが少しみられましたが、十分戦えていたし、非常に平均点の高いドライバーだったと思います。シーズンの間、いろんなことを学び、バトルのやり方、タイムの出し方も進歩し、コメントもどんどん細かくなっていきました」

開幕当初は、新しいSFLのクルマをどのように仕上げていくか、それをどう乗りこなすかについて不安を隠さなかった太田だが、1シーズンを転戦する間にさまざまなことを身につけ、成長を果たしたようだ。



SFL参戦初年度のシーズンを、太田は次のように振り返った。

「チームのおかげもあって、1年を通して自分のドライビング、クルマのセッティングなどにじっくり向き合うことができたし、本当に成長できたと自分で感じます。その上で、1年目のルーキーなのにこんな激しいチャンピオン争いができたなんて、考えてみれば贅沢じゃないですか?」

確かに太田は、目の前にあった王座を自分の元へ引き寄せることはできなかった。しかしシリーズ最終戦となる第18戦では、ポールポジションからスタート、後続に全く脅かされることなく、今季4回目となる優勝のチェッカーフラッグを受けた。1年かけて一回り大きくなった太田は“贅沢な”シーズンを最善の形で締めくくったのである。



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