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SFL 2022

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.5 ~木村偉織~

jp Mobility Resort MOTEGI

モビリティリゾートもてぎで開催された全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権(SFL)第5大会、シリーズ第13戦。HFDP WITH B-MAX RACINGから出走した木村偉織は、その公式予選で今季初めてポールポジションを獲得した。木村はレースウイークの練習走行から快調だった。

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.5 ~木村偉織~

木村の成長を見守り続けてきた高木真一ドライビングアドバイザーは言う。
「これまでは、練習走行で調子がよくても肝心の土曜日は今一つということが続いていました。いろいろ課題はありましたが、それを1年近くかけて経験して、成長して、ようやく本来の速さを発揮できたのかなと思います。第13戦だけでなく第14戦もポールが獲れていたはずなのですが、燃料系にトラブルが出てしまったので獲れなかっただけ。今回は結構ぶっちぎりで速かったと思います」

木村本人も「すごく自信がありました」と胸を張る。その自信には理由があった。前大会から約2カ月の長いインターバルに、木村はこれまでの自分の走りを徹底的に見直し、先に進むためには何が必要なのかを考えたという。
「とにかく予選でポールを獲るために何ができるか、自分のドライビングが速くなる要素、速くならない要素は何なのかを2カ月間、ひたすら考え続けました。今回ポールを獲れて、考えた結果が形になったのかなと思います」



今年初めてSFLを走らせた木村は、いまだSFL車両を完全に乗りこなしているとは言えない。そこに限界があることは木村自身もよく分かっている。
「いざ予選本番になると、自分の中で抑えてしまう部分がありました。たとえばブレーキングで突っ込み切れず、ちょっと手前でブレーキを踏んでいる。予選一発の集中力が足りていないためだと思うんです。昨年まで走っていたFIA-F4は、ウォームアップも含めて8周ぐらいしてからアタックに入って、ベストタイムが出るというクルマでした。でもSFLは、走り始めてアウトラップ、ウォームアップ、アタックの3周ですべてが決まってしまいます。その3周のうちに自分の体と、 マシンのバランスと、コースのコンディションを感じ取って、すべてを合わせ込まないとタイムが出ません。こういうクルマに対して、自分がどういうドライビングをしたいのか、どうドライビングすべきなのかを考え抜きました」



肝心のタイミングで攻め切れない状況は高木アドバイザーも認めている。
「本来、予選では120%で攻めてちょうどいいクルマなのに、偉織は調子がよかった前日のリズムのまま、100%のところで抑えてしまう傾向があります。その結果、ライバルは120%でいってタイムを更新するけど、偉織は前日と同じタイムで終わってしまう状況が見えていました。戦っている相手はギリギリまで攻めてきているのに、偉織は単に綺麗に“クルマなり”に走っているように見える。本人は100%でトップが獲れると思っているのでしょうね。本当は“その先”があるのにいってないということです」

2カ月間のインターバルに、自分が抱えている問題点を徹底的に洗い出した木村は「最後の最後でクルマの状態に自信が持てないことに原因があるのではないか」と考えた。そこで、今回のもてぎは、これまでとは異なる方向のセッティングをエンジニアにリクエストしたという。



「自分が乗りやすいクルマ作りについて分かってきたような気がしたので、ちょっとわがままを言わせてもらいました。エンジニアから提案されてきたコンセプトとは少し違う方向を説明して、僕のリクエストを盛り込んでクルマを作っていただきました。ただ単にアンダーステアだ、オーバーステアだというのではなく、『自分がこういう風に乗りたいから、こういう動きにすれば速く走れると思う』という形でリクエストしました。その結果、予選一発で、自信を持ってアタックすることができました。これまでは『もし、ミスをしたら』と思って“置き”にいくことがありました。でも、今回はクルマを信じて、自信を持って攻められました。おそらく、これが2カ月のあいだに培ったものだったと思います。ここまでポールが獲れずにいたのが課題でしたが、その課題を一つ克服できたと思います」



ポールポジションからスタートした第13戦は残念ながら突然の雨模様となり、ここまでウエットレースの経験がない木村はスタートで順位を落とし3位入賞に終わった。4番手からスタートした第14戦では、トップを脅かす加速を見せながら、接触によるタイヤトラブルでリタイア。結果だけを見ると“これまでの木村の流れ”である。

しかし、第5大会最後のレースとなる第15戦で、木村は本来目指していたレースを見せた。第13戦の決勝結果により3番グリッドからスタートした木村は、会心のダッシュを見せてトップに抜け出すと、そのまま後続を寄せ付けずに走りきり、シリーズ第9戦以来、今シーズン3回目の優勝を飾ることとなったのである。



高木アドバイザーは木村の成長を高く評価する。
「足回りのセットアップやダウンフォースのバランスなど、SFLはFIA-F4に比べてやらなければならないことが多く100倍くらい難しい。でも、ここで苦労してしっかり勉強すれば、上のカテゴリーでも必ず役に立ちます。“速いクルマに乗せられているだけ”ではダメなんです。偉織はまだまだだとは思いますが、ドライバーとして着実に育っていますよ」

長いインターバルに悩み抜いた木村はいま、自分の成長を実感していると言う。
「今季は、体力不足が原因でまともにクルマにすら乗れなかったっていうところから始まりました。シーズン途中に規則が変わってパワステの重さが変わりさらに重くなりましたが、いまは体力的な問題は全く感じていません。フィジカルな部分での成長は明らかですが、SFLというクルマに対する理解度では、その体力面以上に大きく成長できました。ここまでのシーズンを振り返ると、自分のなかでやれることは全部やってきたつもりです。でも、他にもできることがあったはずとも感じます。もっと身につけなければならない部分が見えてきているように思うんです」



今季のSFLはいよいよ1大会3レースを残すのみとなった。現時点で木村の年間ランキングはトップと37点差の3番手。シリーズチャンピオンの可能性は事実上失ってしまっているが、木村の目には未来を切り開くという目標が見え続けている。


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