HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.4 ~太田格之進~
HFDP WITH TODA RACINGの太田格之進は、スポーツランドSUGO(宮城県)で開催された全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権(SUPER FORMULA LIGHTS:以下SFL)シリーズ第10戦、11戦、12戦をポイントリーダーとして迎えた。しかし、公式予選前の練習走行で太田のタイムは伸び悩んだ。
「SUGOはコース幅も狭いし、コース外のグラベルも少ない。少しでも外に飛び出すとクラッシュして大損害につながって、週末を組み立てづらくなってしまう。だから、練習中は我慢するところは我慢して、リスクの高いところでは多少マージンを取って走らざるをえませんでした」と太田は言う。
一方、チーム監督でありドライビングアドバイザーを務める加藤寛規は「雨が降って変動したコンディションでは、『このクルマでどこまで攻められるか』ということを見極めていくのは難しい作業です。太田はルーキーだし、うちのチームは1台体制なので、少しずつ確かめて行かざるをえず、時間がかかりました。ただ、決して不調というわけではありません」と太田のタイムを評価した。
1台体制のチームと、複数台が走ってそれぞれのデータを共有するチームとでは戦い方が変わることがある。限られた走行時間、たとえば異なるセッティングや走り方を複数台で試せば、持ち帰ったデータを比較して、より早く最適解を導き出すことができるからだ。
しかし太田自身は1台体制のTODA RACINGで不利に思ったことはないと言う。「1台で戦っていることが、僕にはすごくいい方向に働いていると思います。2台以上のチームだと、やっぱり負けず嫌いが出て(チームメートと)比較するなど意識してしまう。でも、1台だと自分の走りに集中するしかないわけです。僕はその走りについて加藤さんやエンジニアに相談します。2台体制のように、まずチームメートと比べて『ここは遅いからどうしようか』ではなくて、『自分はこう思って走っているけどどうなのか』というやり方が僕には合っているようです。2台体制だとデータが取れて有利なのかも知れないけど、僕に必要だったのは今の体制だったなと思います」
データを優先し最短距離で「正解」を求める戦い方ばかりがベストではないと加藤も言う。
「最初は、このクルマの走らせ方をある程度教えますが、タイムが出始めたらあとはできるだけ自分で考えてもらうようにしています。格之進がエンジニアと話して、クルマを仕上げる過程で、明らかに方向が違っていたら『ああ、それはちょっと』と口を挟みますけどね。格之進はこれから上のカテゴリーへステップアップしていく選手です。そのとき、(データに頼って)よく分からないままうまく結果だけを出して上に行ってしまうと、上で壁にぶつかったときに越えられなかったりするんです」
こうした加藤の思いは太田にも確実に伝わっている。
「加藤さんは過保護な感じではなくて、僕が悩んでいると自然に登場してきて、本当に必要なところ、大事なところ、僕が本当に悩んでいるところに対して助言してくれるんですが、そうではないときは、どちらかと言うと『まずは自分で考えろ』と突き放されます。そういうスタンスが僕をすごく成長させてくれていると感じます。自分でできるようになれないとこれから先のカテゴリーでは戦っていけませんから。そういう点で、今僕が置かれている環境はすばらしいなと思っているんです」
練習走行まで悩んでいた太田は、公式予選では第10戦でポールポジションを獲得、第11戦でも2番手につけるタイムをたたき出した。
「今日の予選は僅差になると分かっていたので、クラッシュしてもしようがないという気持ちで行かないとダメだと思っていました。それで予選前、加藤監督とエンジニアに『もしクラッシュしたらごめんね』と言って走り出しました。それくらいの気持ちで攻めて、コーナー途中では際どい場面もありましたが『頼む! 踏ん張ってくれ!』と祈りながら走りました。それがうまくいきました」と太田は語った。
決勝レースでは不運が連鎖し、第11戦で3位表彰台に上がるだけにとどまり、シリーズ第12戦を終えた段階で太田のシリーズポイントランキングは2番手へ後退してしまった。しかしトップとはわずか4点差。太田と加藤は学びを深めつつ、シリーズ終盤に立ち向かうことになる。