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SFL 2022

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.3 ~木村偉織~

jp Autopolis

今シーズン、全日本スーパーフォーミュラライツ(SFL)選手権にHFDPの一員としてデビューした木村偉織は、体力面に不安を抱えながら戦い始め、4月第2週に富士スピードウェイで開催された第1大会3戦で2回2位に入賞して表彰台に上がった。少なからぬ心配をよそに、ルーキーとしては快調な滑り出しのように見えた。

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー SFL Vol.3 ~木村偉織~

しかし4月第4週、レーシングスクール時代から走り込んできた鈴鹿サーキットを舞台に行なわれた第2大会の3レースでは5位、5位、7位と全く噛み合わず、まるでルーキーの壁にぶつかったかのように失速した。

「いろんな問題を抱えていますよ」と言うのは、高木真一ドライビングアドバイザーだ。「当初体力面から始まった問題は、チームオーナーの組田龍司さんが一緒になってトレーニングしてくれたおかげで、ようやく成果が出始めました。体力的に厳しいことでは鈴鹿が有名ですが、今回のオートポリスのほうがきついという人がいるくらい、ここはハードなコースです。でも木曜日から長い練習走行をこなして、よいタイムを記録して、体力的に弱音を吐くことはありませんでした」

実際、木村は4回あるセッションのうちで後半2回をトップタイムで終え、その圧倒的な速さに、木村は一気にポールポジションの最有力候補となっていた。

ところが肝心の公式予選で木村はその速さを炸裂させることはできなかった。金曜日夕方の公式予選セッションで木村のタイムは、同じHFDPに所属する仲間でありライバルでもある太田格之進に続く2番手にとどまり、セカンドベストタイムで決まる第8戦のスターティンググリッドは太田、菅波冬悟選手に次ぐ3番手となった。第7戦の予選2番手は今シーズンの木村にとっては最上位だが、木村陣営の表情は必ずしも明るくはなかった。

「練習走行ではずっとトップだったのに、予選一発では路面温度が大きく下がってコンディションが変わり、それに対して自分がうまくタイヤをウォームアップさせられずタイムが出せませんでした。そこに今の自分の弱さがあります」と木村は失敗を認める。



高木アドバイザーは、まさに今木村が抱えている問題が結果になって表れてしまったと指摘した。「速さは元々あるんです。でも予選一発でタイムを出すという走り方が、まだできない。練習では(予選をシミュレートして)なんとかうまくできるようになってきたのですが、それを“本番の予選でやれなければ意味がない”というところに、今の課題があります」

土曜日朝、第7戦の決勝レース前、スターティンググリッドには緊迫した空気が流れていた。ポールポジションには太田、その隣りには木村が並ぶ。オートポリスの第1コーナーは先が見通せないまま下りながら右へ曲がる難所であり、これまでスタート直後のポジション取りで少なからず接触事故が起きてきたポイントである。

チームは「HFDP同士の接触は絶対にするな」と、スタート前の木村に言い聞かせている。だが、だからと言って譲ってしまえば勝つことはできない。コクピットに収まった木村は「第7戦の順位で、第9戦のスタート位置が決まるので絶対に前へ行くという気持ちでいました」と言う。

「スタート前には(太田選手と)絶対に当たるなと言われました。でも絶対に前へ行きたい。もし僕にチャンスがあるならアウトから“まくる”しかないと思っていました。アウトからまくって当たったら、そのときはイン側が原因になりがちなので、コーナー進入の時点で(アウトから)前に出られればメンタル的にも自分が優位に立てると考えて、ブレーキングでリヤホイールをロックさせながらでしたがアグレッシブに突っ込んで、結果的にうまく行きました」



スタート直後の第1コーナーで太田に並んだ木村は第4コーナーでトップに立ち、その後少しずつ太田を引き離して自身初めての勝利を遂げた。

この初優勝については高木も高く評価する。

「今シーズンは、SFLだけではなくSUPER GT GT300クラスでもうまく噛み合っていないレースが続いて、彼なりに精神的な面でつらい状況にはあったと思う。今回のレースでも、あまり無茶はできない状況だったけれどスタートをうまく決めて、勝負するところはした。Honda同士でぶつかるのは絶対にあってはならないことで、それは頭の中に入れながらの駆け引きだったと思うけど、うまくやれたんじゃないかな」

まず第7戦で初優勝を遂げ、第9戦のポールポジションを獲得した木村は、この週末を思いどおりの展開に持ち込もうとしているように見えた。ところが土曜日午後に開催された第8戦で状況は暗転した。予選3番手からスタートした木村はジャンプスタートをした上、3コーナー立ち上がりで平良響選手と2番手を争う過程で接触、木村自身はコースにとどまって2番手を守ったものの平良選手がコースオフしてしまったのだ。

木村は太田に続く2番手のままレースを走り抜きチェッカーフラッグを受けたが、ジャンプスタートと接触に関してのペナルティーを受け、正式結果は8位となり選手権ポイントは今シーズン初めての無得点に終わった。シリーズチャンピオンを争う上では大きな失敗だった。



レース後の木村はジャンプスタートはともかく、接触の裁定について納得がいかないままでいた。「自分は、進路を塞がれた被害者だと思っていました」と木村は言う。レース後、車載映像を繰り返し眺めたが、あのとき自分はどうするべきなのかが分からなかった。翌日は朝8時から第9戦のスタート進行が始まる。モヤモヤした気持ちを引きずってもよいレースはできない。土曜日の夕食を終え、宿舎に戻るクルマの中で木村は高木アドバイザーと、第8戦で受けたペナルティーについて話し続けた。

「やはりどうしても納得がいかない部分があると高木さんに言ったんです。そうしたら高木さんが『それならこっちから審査委員会に出向いて話を聞いてみたらどうか?』とアドバイスをくれたんです。それで『じゃあ行きます!』ということになりました」

しかしすでに夜は更け、翌朝は朝一番でレースがある。木村は自分なりに気持ちを入れ替えて第9戦に臨んだ。スタート位置は第7戦の競技結果によりポールポジションである。絶対に逃せないレース、木村は冷静にトップを守ったままレースを始め、その後は後続を引き離して独走に持ち込んで2勝目を挙げた。

「勝負は1コーナーと3コーナーだと思っていました。第8戦でジャンプスタートしたので気を付けていたら若干出遅れてしまったんですけど、スタート後の展開については、あらゆるケースを想定して、どう対処するべきかを頭の中で考え尽くしてレースに臨んでいたので、ポジションを守り切ったままレースを始められました」



レースを終え自身2回目となる優勝の表彰を受けた木村には、まだやらなければならないことがあった。木村はレーシングスーツを脱ぐこともなくその足でコントロールタワーへ出向き、前日第8戦のペナルティーについて、審査に関わった飯田章レースディレクターに面会、改めて裁定について説明を受けたのである。

「接触してしまったことについては悪かったと思うけれど、では自分はどこで引けばよかったのかというタイミングが正直なところ分からず、納得ができない部分があったし、自分が今後レースをする上でこの際学ぶべきことはしっかり学ぼうと思って、飯田章さんに直接質問して意見を伺いました。飯田さんには、レースはゴールしないといけないものであること、レースができるのはクルマを用意してくれた人たちのおかげで、最後の最後にそのクルマをゴールに導くのがドライバーの仕事であり、それができないドライバーは失格であることなど、丁寧に教えていただいて、本当にそうだなと納得できました。それでようやく自分の気持ちも整理が付いて1段階成長できたなと思いました」

無得点に終わってしまった第8戦のペナルティーに納得すると同時に、木村は初めて優勝を遂げた第7戦の展開も振り返る。

「僕にはスタート以外にチャンスがなかったので、ちょっと無理してでもいかなくちゃいけないと思っていました。争っている途中でちょっと押し出されたら僕は順位を下げざるを得ないというリスクの大きなバトルでしたが、立ち上がりまでクリーンなレースをしてくれた太田(格之進)選手のおかげでトップに立てたんです」



オートポリスでの第2大会、3回のレースで初優勝を遂げたばかりか2度目の優勝も重ね、戦果を残すとともに多くを学んだ木村を眺める高木アドバイザーは言う。

「偉織は速さを持っているけれど、まだ心の問題があって、“やらかし”やすいんです。その一方、多くの人の協力、支援があって今年SFLにステップアップできた自分の立場などは理解している。それゆえに、ここで何かやらかしたら大きな問題になるという意識を強く持っていて、僕に言わせれば若いのに『え? ここ、行かないの? 引いちゃうの?』みたいな感じで萎縮しているようにも見えます。よい意味で大人になったのかもしれないけど、よい意味で“元気な暴れん坊”という偉織の持ち味が薄まっているような気もします。でも今回勝ったことでひと皮むけて調子に乗ってくると、今度は調子に乗りすぎないようにそれを抑えなくてはいけなくなるんでしょうね(笑)。様子を見ながらもう少しだけ調子に乗ってくれるくらいのレベルにコントロールするとともに、チームのみんなでうまくサポートしていきたいと思っています」

シーズン前半を終えて木村はシリーズポイントを42点に増やし、65点でランキングトップの太田、46点でランキング2番手の小高一斗に続ランキング3位に付けている。シーズン折り返しとなる次大会第10戦、11戦、12戦は、6月17日~19日、宮城県スポーツランドSUGOで開催される。


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