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HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー 2024~荒尾創大~

今シーズン、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権に初参戦することとなった荒尾創大。

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー 2024~荒尾創大~

2021年度の鈴鹿サーキットレーシングスクール-フォーミュラ(SRS-Formula。現HRS)を首席で卒業し、スカラシップを獲得。翌2022年にはフランスF4選手権、2023年にはイギリスGB3選手権に参戦し、今年は自身初となる日本のレースにシリーズ参戦する。

「スクールで初めてフォーミュラカーに乗りました。なにも分からないところから始まりましたが、首席を取ることができました。ただ、そんな状態でフランスに渡って、いきなり戦えるのか不安でした」

それまで本格的な四輪レースの経験がない当時16歳の若者にとって、フォーミュラカーの乗りこなしは容易ではない。レースで実践を積みながら身につけなければならないテクニックは山積していた。しかし、ドライビングを習得するにあたり、現地で相談できる相手はレースエンジニアのみ。そのエンジニアは複数の若手を相手にしていて、フランス語を話せないまま日本を飛び出した荒尾がドライビングを学び取るには限界があった。

そのような難しい環境の中、荒尾は2022年度フランスF4選手権のシリーズ全7大会21レースに出走し、2回の優勝を記録。表彰台には優勝を含め9回上がって総合ランキング3位にくい込んだ。本格的なフォーミュラカーレースへの参戦を始めたシーズンであることを考えれば、期待を上回る戦果である。



この結果の裏には、鈴鹿サーキットレーシングスクール(現 ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿<HRS>)で講師の1人として荒尾の指導をしていた加藤寛規の存在があった。

荒尾はオンラインで日本にいる加藤寛規からドライビングについて指導を受けていたのである

「練習が終わった後、オンボード映像を送って加藤さんに見てもらい、アドバイスをいただいていました。走り始めのタイヤの温め方や、その後の使い方など、相談に乗ってもらっていました」

オンラインを介したリモートコーチはデジタル時代ならではのスタイルだ。2005年生まれで、まさにデジタルネイティブ世代である荒尾は加藤から多くを学び取り、ドライビングを磨くとともに自信を深めていった。

「加藤さんは、いつも自信につながるような言葉をかけてくれました。おかげで迷いなく戦うことができるようになり、フォーミュラカーレース デビューシーズンはまずまずの結果が出せたと思います」



物心ついた時からレーシングカートに乗り、ここまで順調にステップアップしてきた荒尾は翌年に大きな壁にぶつかることになった。2023年にイギリスGB3選手権へステップアップし、経験したことのないほどの不振に陥るのだ。

イギリスGB3選手権は、イギリスF3選手権の解散にFIA-F4車両を上回る性能を発揮する車両を導入して始まった、イギリス独自のフォーミュラカーレース・シリーズである。

荒尾は門チームであるハイテック・パルスエイトから8大会24レースに出走した。しかし、ファステストラップを1度は記録したものの、レース結果は2度獲得した5位が最高位。総合ランキング17位に終わった。チームメートのアイルランド人ドライバーが4回優勝し、同ランキングで2位にくい込んだことを考えると、ここまで順調に育ってきた荒尾にとっ初めての挫折であった。

「イギリスでは全くうまくいかず、人生で最悪な年になりました。チームとうまくいかなかったことが最大の要因です。チームは、チームメートのドライビングデータをベースにクルマを仕上げてくれていたので、僕に合っていない部分がありましたが、そのまま走らざるを得ませんでした。とはいえ、僕がチームメートより速く走っていれば、チームは僕に合わせてクルマを仕上げてくれたはずです。僕が速く走れなかったことが最大の問題でした」

思いがけない不振に陥った荒尾は「結構メンタルをやられてしまいました。まだ17歳でしたが、人生について考えることもありました。元々心は強い方だと思っていたのですが、昨年はかなり弱っていたと思います」と言う



今シーズン、荒尾は日本へ戻り、戸田レーシングから全日本スーパーフォーミュラ・ライツ(SFL)選手権にチャレンジする権利を得た。戸田レーシングは、これまでホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)とともに多くのトップ選手を育てた名門レーシングチームである。

戸田レーシングのチーム監督は、リモートコーチとして海外活動中の荒尾を支えてきた加藤であり、さらにコーチには、戸田レーシング出身で今やトップドライバーとして活躍する大津弘樹がつく。もちろん、リモートではなくレースの現場で荒尾に寄り添う、万全の体制が整っている。

「今シーズン当初、昨年の不振が不安として残っていました。でも、戸田レーシングで加藤さんや大津さんが支えてくださり、日を重ねていくごとに、大丈夫だと感じるようになりました。いい流れを取り戻せそうな気がしてきました」と荒尾は語る。



「子どものころからずっと順調だったのに、昨年はうまくいかなかった。あの状態を自分の力で改善できたかと考えると、無理だったと思います。僕にはまだ経験が必要です。レースの結果はもちろん大切ですが、今年は経験を積むことがさらに大切だと思っています。加藤さんは経験豊富な方ですし、GT300の監督も、HRSの講師も務められていて、さまざまなカテゴリーで経験してきたことを教えてくださいます。ドライバーとしてのコメントの仕方やセットアップの進め方などを、今年一年加藤さんから勉強したいと思います。また大津コーチもいらっしゃるので、最新のGT500やスーパーフォーミュラの経験なども教わりたいです」

そう語った荒尾は、SFL開幕大会3レースで3連続7位フィニッシュを遂げた。選手権ポイント獲得にこそ届かなかったが、しっかりと経験を重ね自信を取り戻しているようだ。次の大会では結果を出そうという意気込みが、確かに感じられた。



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