Rally

世界一過酷なラリーに挑む -Hondaのダカールラリー2連勝の内幕-

2021年、世界一過酷なラリーと言われるダカールラリーの二輪車部門で、CRF450 RALLY を駆るMonster Energy Honda Teamが2連覇を達成しました。そのラリーの最中、HRCの本田太一レース運営室オフロードブロックマネージャーは、「ダカールラリーで勝つためには、マシン、チーム運営、ライダーの3つの要素のバランスが取れていることが大切です。目標を達成するためには、この3つの要素が調和していなければなりません」と話しました。

世界一過酷なラリーに挑む -Hondaのダカールラリー2連勝の内幕-

1986年から1989年まで、Hondaは勝つことを目的に開発したマシンNXR750シリーズでダカールラリー4連覇を成し遂げ、その歴史に名を残しました。 2013年、Hondaがダカールラリーに復帰した当時、本田は37歳。以来エンジニアとして、Hondaを再びダカールラリーのトップに立たせることを使命としてきました。

本田はダカールラリーのスタート/ゴール地点となったジッダで次のようにコメントしています。「ダカールラリーのような過酷なレースで勝つには、実際に走ることでしか得られない経験や技術的なノウハウが必要です。ダカールラリーは1年に1回しか開催されません。シーズンを重ねる度にさまざまな地形や予測できないレースの状況からデータを集めました。ライダーやチームが振るわないこともあれば、マシンのパフォーマンスが完ぺきではない年もありました。しかし、昨シーズンは、マシンとライダー、チームのすべてがそろい、私たちは勝利することができました。2021年の目標は昨シーズンの自分たちを再現し、連勝することでした。連勝することで、実力が確かなものとなるからです」

マシン

過酷な地形とコンディション下で2週間のラリーを走るには、マシンのパフォーマンスと耐久性のベストな妥協点を見つけることが重要です。

「復帰した2013年からの南米でのレースで収集したデータはすべて、勝利へ向けてマシンを調整するベースとなりました」と本田は語ります。そして、2020年からサウジアラビアに場所を移したダカールラリーの第3章で、チームとライダーは新たな地形と今までとは異なる戦い方に取り組みました。

Hondaは2020年のダカールラリーで、リッキー・ブラベックとともに総合優勝。そこで収集したデータをもとに、さらなるマシン開発を行いました。「私たちは、さまざまな地形や路面を意識して耐久性の向上に取り組みました。一方で燃費の面でレースがより厳しくなっていたということもあり、燃費を向上させるための燃料マッピングも開発しました。さらにサスペンションのアップデートや、エンジンの耐久性向上にも取り組みました」

チームにとってもライダーにとってもマシンのメンテナンスは重要な要素です。ライダーは熟練したライディングスキルやナビゲーションスキルに加えて、ステージ中にマシンの整備をする必要があり、優秀なメカニックとしての技量も問われます。

「CRF450 RALLY は、これまでの経験から、メンテナンスを容易にするために造りをシンプルにしてきました。2013年にラリーに再参戦した際にはその部分が配慮されておらず、複雑すぎるマシンでした」と本田は認めています。「シーズンを重ね、経験値を積むことでマシンのメンテナンスは格段に楽になっていますが、南米ではマシンの整備に真夜中までかかったことを覚えていますよ(笑)」


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チーム

明確なビジョン、効率的な体制、確かな戦略の共有、これらの3つの柱が、チームとしてのHondaを次のレベルへと押し上げました。2020年にリッキー・ブラベックと復帰後初の総合優勝を達成しただけでなく、2021年にはケビン・ベナビデスとともにダカールラリー2連覇を果たしたのです。

「チームの全員が、明確なプログラムとアジェンダを事前に計画して、自分たちが何をすべきかを把握できていました」と本田は続けます。

2020年にはチームマネージャーのルーベン・ファリアを始めとした新メンバーがチームに加入しました。チームの再編成をするレースストラテジストとしてヘルダー・ロドリゲス、ライダーズアドバイザー兼ストラテジストにジョニー・キャンベルを起用し、各選手にメカニックとアシスタントを配置するという明確な体制でチームを再編成しました。このことにより、マシンやライダーが、なにが起きるか分からない過酷でタフなコンディションが特徴のレースを乗り越えるためのサポートができる環境が整いました。

「リッキー・ブラベックが2020年のラリーを制した翌日から、2021年のラリーへ向けた作業を開始しました」 とファリアは今年のラリー開幕前にジッダで語りました。

「2020年の総合優勝はHondaとMonster Energy Honda Teamにとっては大きな快挙でしたが、当時、心の中では競技中の事故で亡くなったパウロ・ゴンサルヴェス選手(2019年までMonster Energy Honda Teamとして参戦)のことを想っていました。彼はチームの一員であり、チームメートであり、友人でした。私たちの目標はただ一つ、2021年のラリーにも勝利し2連覇を達成することです。Hondaとパウロ(ゴンサルヴェス)のために成功を繰り返すことです。チームの全員がこのビジョンを共有し一つになりました」

2021年シーズンへ向けた準備は、新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンの影響を大きく受けました。例年とは異なり、マシンは日本で組み立てと準備を行い、バルセロナにあるチームのファクトリーでメカニックがさらに1カ月間の作業を行って、12月3日にマルセイユ港からジッダへ向けて参戦マシンとアシスタンス車両が出港しました。

パンデミックの影響を軽減し、安全かつ円滑なラリー運営のために厳しい制約が採用されました。「効率を犠牲にすることなく、スタッフの数を最小限にすることにしました」とファリアは説明します。「例えば、日本からのエンジニアはこれまでの6~7名から2名にしました。ライダー4名を含む24名のスタッフは、マシン1台につきメカニック1名、チーフメカニック1名、エンジニア2名、サスペンション担当1名。ライダー1名につきアシスタント1名のほか、ロジスティクスコーディネーター、スペアパーツ担当者、2名の理学療法士、レースストラテジスト、プレスオフィサーで構成されました」


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1日の過ごし方

ラリーがスタートすると、誰もがハードな毎日を送ることになります。

「ダカールラリーは、ライダーにとってもチームにとっても、人生を変えるような特別な体験です」と語るのは、"キング・オブ・バハ "の愛称を持つジョニー・キャンベルです。キャンベルは、ダカールラリーに参戦した経験を持ち(2013年にHondaがダカールラリーに復帰した際にはHondaのファクトリーライダーとして参戦)、現在はMonster Energy Honda Teamのレースストラテジストとして活躍しています。

「ダカールラリーに参加した人は、快適な生活から飛び出して人生経験を積み、非常に人間的でプロフェッショナルな冒険をすることができます」

キャンベルはすべてのライダーと近い存在ですが、特にリッキー・ブラベックとホセ・イグナシオ・コルネホとは密接に仕事をしています。

「チーム内では誰もが特定のタスクを持っていますが、私たちは一丸となって行動します。ビバークではチームメートと肩を並べて生活しています。エアコンのない小さなテントの中で埃を被って寝ます。夜は厳寒で昼間は猛暑となる日が続き、一つのステージから次のステージへと移動するのは長くて大変です」

ビバークでは、まだ夜中のうちに目覚まし時計が鳴り響きます。

「ライダーの1時間半前には起きます」 とリッキー・ブラベックのメカニック、エリック・シラトンは話します。「日によって違いますが、最初のライダーが出発するのが午前4時から5時の間であることを考えると、通常は午前3時から3時半頃に起きます。ライダーが出発したら、ルートの長さに応じて朝食をとるか、車に飛び乗って最初のアシスタンスポイントか次のビバークに行き、準備をします。平均して5~6時間の移動になります」

午後12時半から3時の間にビバークに到着すると、メカニック陣は食事を摂り、ライダーが到着するのを待ちます。

「ライダーが到着したら、技術的なブリーフィングを行ってからマシンに向かい仕事を開始します」とエリックは続ける。「特に問題がなければ、マシンの半分を分解します。2~3時間かかることもあります。もし問題があった場合はもっと時間がかかります」

ロードブックの配布はステージ開始20分前なので、ライダーはテクニカルブリーフィングの後は休養を取ったり、理学療法士のもとで体を整えることができます。ミゲル・アンヘル・ドミンゲスとフィリッポ・カマシェッラの2人の理学療法士は、毎日1時間半にわたってライダーの1日の走行後の回復をサポートしています。2021年の大会で最も長い1日の走行距離は第4ステージで、856kmでした。ドミンゲスはF1での経歴があり、カマシェッラは2019年と2020年にモトクロス世界選手権を制したティム・ガイザーを支えたTeam HRCの一員です。

「ライダーが到着するとすぐに、水分補給のための特別な飲料を渡し、シャワーや昼食を摂ってもらい、その後に細胞の再生と微小循環を刺激する90分のテカー療法を行います。さらにその後、理学療法と寒冷療法を行います。私はいつもそのための機械を持ち歩いています」とドミンゲスは語ります。

「私たちは体のすべての部分に働きかけます 」とカマシェッラは言います。「私たちの仕事は体の回復を早め、ケガを防ぐのに役立ちます。例えば、ケビン・ベナビデスは、鼻に深い切り傷を負い、クラッシュで両足首を負傷しました。私たちの治療の後、彼は改善し、翌日はずっといいコンディションでスタートすることができました」

地球上で最も過酷なラリーであるこの大会は、ほかに類を見ない耐久テストであり、ライダーたちの痛みに対する耐性は目を見張るものがありますが、日々の理学療法によっても支えられているのです。


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Hondaの2連勝達成

Hondaはチーム一丸となって、4人のライダーがそれぞれステージ勝利を収め、全12ステージ中、第10ステージまでは4人で総合優勝を争っていました。しかし、残り2ステージとなったところで、Honda勢に過酷なダカールラリーが牙を剥きました。第10ステージでコルネホが転倒してリタイアとなり、第11ステージではアル・ウラーからヤンブを目指すスペシャルステージで給油のチャンスを逃したジョアン・バレーダがリタイアとなってしまいます。

「Hondaは、4人のライダー全員が優勝候補としてすばらしい戦いをしていました。チームからの指示はなく、戦略は自由でした」と2021年のダカールラリーで初の総合優勝を果たしたベナビデスは語ります。

「レースの後半は、さらに厳しい戦いになることは分かっていました。振り返ってみると、常に先の読めないクレイジーなレースでした。優勝した第9ステージでは、別チームから参戦していた弟が転倒してしまいとても心配でしたし、第10ステージで起きた総合トップを走っていたコルネホの転倒も心配でした。ジョアン(バレーダ)がリタイアした第11ステージはゴールまであと1日のところでした。

2021年のダカールラリーでの勝利のカギはナビゲーションでした。これまでに経験したことのない激しい戦いのタフなラリーで、トップは頻繁に変化しました。常にプレッシャーがかかっていました。不安がモチベーションになりました。楽しいレースでしたが、チーム全体の力が必要でした」

勝利への道

勝利したベナビデスですが、第12ステージでは、総合優勝を逃したと思った瞬間があったとゴール後に語っています。「先頭で走っていましたが、14km地点でミスをしてしまい、Uターンして正しい道を探さなければなりませんでした。これで優勝を逃してしまうのではないかと不安になりました。ダカールラリーで完ぺきな走行は不可能です。ミスもしましたし、痛みもありましたが、勝ちたいという気持ちが勝っていました。最後1メートルを切って初めて自分が勝ったことに気付きました」

最後のスペシャルステージを終え、並んだチームの全員を抱きしめて空を指差しながら、ベナビデスはダカールラリーでの初勝利をかつてのチームメートのパウロ・ゴンサルヴェス選手に捧げました。

12日間、全行程4,500km以上、50時間近いバイクでの走行を経て、Monster Energy Honda Teamはケビン・ベナビデスの勝利により2連覇を達成しました。2020年の勝者のブラベックはベナビデスからわずか5分差で2位となりました。

チームマネージャーのファリアはこう話します。

「ダカールラリーで勝つためには完ぺきなライダーも必要ですが、完ぺきなチームである必要もありますし、年間を通した開発や鍛錬も必要です」

個人の力だけでは、最も長く、最も過酷で、最も崇められている二輪のオフロードレースに勝つことはできません。

Hondaはチームとして働き、苦労し、そして勝利しました。24人のチームメンバーは、Hondaをダカールラリーの頂点に再び立たせるという共通の目標を胸に、それぞれの夢を追いかけ、この2連覇を達成することができました」


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