全日本モトクロス選手権 2023年シーズンプレビュー
モトクロスとは、未舗装の周回路で速さを競うスプリントレース。一般的にコースは丘陵などの不整地を利用して設けられ、自然の傾斜や起伏も活かしながら、ストレートとコーナーと大小さまざまなジャンプを配してレイアウトされている。メジャーな二輪スプリントレースカテゴリーでは唯一、ライダーが横一列に並んでスタートするのもモトクロスの特徴で、1コーナーでトップに立つ「ホールショット」を取るべく、一斉に飛び込んでくるさまはド迫力。予選上位のライダーから順に、有利と思われるスターティンググリッドを自ら選択して決勝に臨む。
国内におけるモトクロス競技の頂点となる全日本選手権シリーズは、1964年に第1回モトクロス日本グランプリとして開催された大会がルーツで、67年からシリーズ戦として開催されてきた。現在、各大会では全日本格式としてIA1/IA2/IBオープン/レディースの4クラスが実施され、ジュニアクロスやチャイルドクロスなどが併催されている。モトクロスでは、レースの長さが周回数ではなく「〇分+1周」というように時間で決められ、スタートから規定時間が経過した周回の1周後にゴールを迎える。2021年からポイントスケールが変更され、各レースの1~15位が得点対象となり、1位25点、2位20点、3位16点……というように加算され、その合計でシリーズランキングを競う。
全日本モトクロス選手権シリーズのうち、国際A級ライセンス所持者が参加できる最高峰のIA1(4ストローク450cc/2ストローク250cc)と、若手や中堅ライダーが中心となるIA2(4ストローク250cc/2ストローク125cc)は、プロトタイプのエンジンおよびフレームを使用することが認められているため、日本のバイクメーカーはマシンの先行開発の場としてもこの選手権を長年にわたり活用してきた。もちろんHondaも同様で、例えば2000年にはCRF450R、02年にはCRF250Rのプロトタイプマシンが、世界に先駆けて全日本でデビューを飾っている。
クラスごとに最適なエンジン設計思想を導入
モトクロスのカテゴリーでも、近年は4ストロークエンジンが主流となっている。Hondaは現在、最高峰のCRF450Rからキッズ向けエントリーモデルのCRF50Fまで、6車種のモトクロッサーを市販しており、そのすべてが4ストロークだ。IA1で使用されるトップモデルのCRF450Rは、プロトタイプ車の00~01年全日本参戦を経て、02年モデルで市販開始。その後、20年以上にわたり熟成を続けてきた。搭載する449.7cc水冷単気筒OHC4バルブエンジンは、4つのバルブを1本のカムシャフトで駆動させる独創のユニカムバルブトレイン機構を採用しているのが大きな特徴だ。吸気側はカムがバルブを直に押し、排気側はロッカーアームを介する独特な構造により、エンジンの軽量コンパクト化や理想的な燃焼室形状を実現。13~22年の10年間で8度の全日本タイトルを獲得しており、大きな成果を挙げている。
IA2クラスで使用されるCRF250Rは、04年モデルとして市販を開始し、18年型でフルモデルチェンジした際に、スタート時の優位性確保と加速性能の向上を目的としてエンジンをDOHCに変更。一般的にDOHCは高回転型でOHCは低中速回転型とされていて、450よりも小排気量の250ではエンジンの最高回転数と最高出力を伸ばすことのほうが有利に働くという判断がなされた。21年には大城魁之輔がCRF250Rのスピードを活かした走りでIA2のシリーズタイトルを獲得している。
レディースクラスで使用するCRF150Rは、ホイールがやや小径で車体が小さい4ストローク150ccマシン。本クラスではHondaのみが4ストロークマシンを採用しているが、トラクション性に優れ、回転数の落ち込みをある程度許容する扱いやすいエンジン特性がアドバンテージとなり、過去10年間で7度のチャンピオンを獲得している。ちなみにCRF150Rは07年モデルでデビュー。そのエンジンはOHCで、CRF450Rと同じくユニカムを採用している。
最高峰クラス2年目の大城&大倉がタイトル争いに挑む。ベテランのアグレッシブな走りにも注目
2023年、全日本IA1クラスには、大城魁之輔と大倉由揮を継続起用するHonda Dream Racing Bellsをトップチームに、小方誠(TEAM HAMMER)や大塚豪太(T.E.SPORT)など多くのライダーがCRF450Rで参戦する。
大城は21年のIA2チャンピオンで、IA1クラスにステップアップした2022年は、開幕戦ヒート1でいきなり3位表彰台に立ち、第3戦ヒート2で初勝利。全日本最高峰のわずか7レース目で初優勝を挙げた。シーズン中盤に鎖骨を折るケガに見舞われたが、第6戦ヒート1で2勝目を挙げ、ランキング4位を獲得。スピードはすでにトップレベルにあり、今季はチャンピオン候補に挙げられるライダーだ。
大倉は21年IA2ランキング2位。22年からHonda Dream Racing Bellsに加わり、幼少期からのライバル大城とともにIA1クラスにステップアップした。第2戦ヒート1で初表彰台を獲得したものの、シーズンを通して腕上がりの症状に苦しみランキング6位。粘り強さには以前から定評があり、速さに磨きがかかれば優勝争いに加われる実力の持ち主である。
小方はかつてHondaファクトリーチームでも活躍し、今年で38歳を迎えるベテラン。昨季は表彰台を2度獲得してシリーズ5位にランクインしている。"開けっぷり"のよい豪快なライディングスタイルは健在だ。大塚は昨季第6戦で表彰台に上がっており、今季はさらなる飛躍を誓う。
今季はヤマハから、22年IA2で16戦15勝を収めたジェイ・ウイルソンが参戦するため、IA1クラスはより厳しい戦いが予想されるが、最高峰クラス2年目の大城と大倉にとっては実戦でさらに走りを磨くチャンスの年にもなるだろう。そしてもちろん、レースに参戦するからには勝利を狙っている。
モトクロス界のニューヒーロー誕生なるか
若手と中堅のライダーが中心となるIA2クラスのHonda勢では、2022年ランキング3位だった柳瀬大河、同5位の横澤拓夢、同7位の鈴村英喜に期待が集まる。
柳瀬は今年18歳の若手注目株で、2階級特進で国際A級昇格を果たした21年から全日本IA2クラスにフル参戦。そのわずか5レース目で3位表彰台に立ち、周囲を驚かせた。22年は16ヒート中の5ヒートで表彰台に立ち、ランキング3位を獲得。速さはすでにIA2トップレベルにあり、安定感が増せばチャンピオンは目前だ。18歳でチャンピオンになれば、まさに日本モトクロス界の未来を背負うニューヒーロー誕生と言っていいだろう。
IA2にフル参戦する選手で唯一、決勝レースでの優勝経験がある横瀬、昨季2位(日本人トップ)を2回獲得した鈴村も勝利を狙っている。
王者の引退で激戦必至のレディースクラス。復活の元チャンピオンに注目
女性ライダーが熱い戦いを繰り広げるレディースクラスでは、CRF150Rを駆る久保まなが22年のチャンピオンに輝いたが、その久保は昨年限りで現役引退。Honda勢ではさらに、ランキング3位だった小野彩葉、同6位の畑尾樹璃も引退を発表した。
その中で注目されるのは、20~21年チャンピオンで、昨季は久保と同ポイントでランキング2位だった川井麻央。22年序盤は苦しいレースが続いたが、シーズン後半に調子を取り戻すと、ラスト3戦を2位、優勝、優勝で締めくくり、その速さが衰えていないことを証明。逆境でも弱音を吐かない真のアスリートが、"楽しみながら"チャンピオン奪還を狙う。
各クラスに見どころのあふれる全日本モトクロス選手権は、北海道から九州まで全国各地で全9戦が予定されている。開幕戦は4月8日から9日、熊本県のHSR九州で開催。モトクロスならではの激しい接近戦のバトルを、近くの会場でぜひとも見届けていただきたい。
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