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Japanese FIA F4 2022
Round 5

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー FIA-F4 Vol.5 ~西村和真~

jp Sportsland SUGO

「やっぱり時間のことは気にします。ここまで思うような結果が出ていない中で、時間だけはどんどんどんどん流れてレースが終わっていく。正直なところ焦る気持ちはあります」と胸の内を明かすのは、ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)からFIA-F4日本選手権シリーズに参戦している西村和真だ。

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー FIA-F4 Vol.5 ~西村和真~

西村は今年7月、23歳になった。若年齢化の進む現代モータースポーツ界にFIA-F4ルーキーとして身を投じて半年。9月17日から18日にかけて宮城県のスポーツランドSUGOではシリーズ第5大会(第9戦および第10戦)が開催され、今年も残すは2大会4戦となった。容赦なくスケジュールが進んでいくなか、西村は「自分の年齢」と「成長のバランス」を見つめている。

今年HFDPに加入する以前、西村は鈴鹿のレーシングチームで四輪レースを経験はしている。しかしHFDPの体制はそれまで経験した環境とは大きく違ったようだ。
「それまでのレースは、HFDPのような複数のドライバーが所属している体制のチームではなく、ドライバーは僕ひとりでしたから、僕だけのためにクルマを仕上げてくれていました。でもHFDPではドライバーが3人いて、監督、アドバイザー、エンジニア、チーフメカニック、担当メカニックの皆さん……という体制です」

体制の違いは、成長途上の西村にとって、学び方の違いにつながったという。
「ひとりだと、クルマのフィーリングについて僕がエンジニアにコメントすると、そのコメントに沿ってセッティングが進んでいきます。でも、HFDPではクルマに対するコメントがドライバーごとに少しずつ違っていたりします。最初はその違いがなぜ生じるのかが悩みの種でした」



今シーズンのHFDPには、3シーズン目を迎える小出峻、ルーキーの西村と三井優介の3選手が所属し戦っている。3人はセッティングデータを共有し、それを参考に車両を仕上げていく。だが3選手のドライビングスタイルや感覚は当然ながら個性によって異なる。レーシングカーのセッティングに「唯一の正解」は存在しない。西村は初めてその現実に突き当たり、自分を見失いかけた。

「小出選手や三井選手が、自分の感覚と異なるコメントをすることがあります。彼らはレースで結果を残していますし『自分は本当にクルマの状態を正しく感じ取っているのか?』と不安になったり、悩んだりもしました」



自分を疑い始めた西村が、一つの道を見出すきっかけがあった。

「6月、オートポリスへテストに行ったのですが、クルマのフィーリングが小出選手とあまりにも違っていたので、試しに一度、彼のセッティングで走ってみたんです。すると、それは、僕が目指していたイメージとは大きく違っていました。明らかに“曲がるクルマ”だったのです。『ああ、こういう曲げ方もあるのか!』と強く印象に残りました」

どちらかと言えばクルマを振り回して、車両の向きを変えるスタイルを目指していた西村にとって、「クルマのセッティングの違い」よりも、「そのセッティングのクルマを乗りこなすドライビングスタイル」が大きなヒントになったようだ。

「その場で感じて納得しました。ドライビングスタイルの違いでクルマのセッティングはこんなに変わるんだということを体験でき、すごく勉強になりました。自分は器用なほうではないので、そういう方向のセッティングにすぐに対応することはできません。だけど考え方としては、常に意識しながら走るようになりました」



自分と異なる走り方をする同僚がいるからこそ、西村はいわゆる「引き出し」を一つ増やした。これこそがモータースポーツにおける「成長」である。西村は自分の成長を実感しているという。
「HFDPの体制は、自分のドライビングもクルマのセッティングも、もうすべてにおいて勉強になることでいっぱいです」

とはいえ、時間は限られている。自分の方向性を追求し、あるときはそれを疑い、ライバルとも言える同僚から学び取るためには、1シーズンでは短すぎる。
「時間が足りません。開幕からここまであっという間で、もう残り2大会しかないのかと焦る気持ちは確かにあります。でも妥協はできません。時間がない中で、できるだけ自分は成長しなければなりません。いろんなことを吸収して、その中の一つでも自分のものにできればという気持ちで走っています」



SUGO大会の週末、西村は第9戦を9位、第10戦を8位で終えてそれぞれ選手権ポイントを獲得し、ドライバーランキングを8番手にして第5大会を終えた。FIA-F4日本選手権も残るは2大会、4戦である。



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