HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー FIA-F4 Vol.4 ~小出峻~
レーシングドライバーには、“速さ”だけではなく“強さ”が必要だと言われる。今年、FIA-F4日本選手権で3シーズン目を迎えた小出峻は、開幕大会第1戦こそ不運なアクシデントで無得点に終わったが、第2戦で優勝を飾ると、第2大会の第3戦/第4戦、第3大会の第5戦/第6戦と破竹の5連勝を飾ってシリーズポイントランキング首位に躍り出た。
昨シーズンの戦績は、わずか1勝のみで、最終結果はランキング6位に終わったことを考えれば、今年の小出はまるで別人のような“強さ”を発揮している。
そうしたなかで迎えた鈴鹿サーキットでの第4大会(第7戦および第8戦)。「今年の僕は昨年と違って自信を持っています」と小出は胸を張る。
「レース中のオーバーテイクやブロックなどという技術は、練習で磨けば速くなれると思います。でも、それだけではダメ。やっぱり自信があってこそ強くなれると思うんです」
では、その自信は昨年の段階で身につけられなかったものなのだろうか。
「正直なところ、昨年の段階では自分には自信を持てないでいました」と小出は本音を明かした。
「昨年までの僕は、自分の走りのスタイルにクルマのセッティングを合わせようとしていました。でも、今年は『クルマに自分の走りを合わせる』というテーマを持って臨みました。昨年までは自分に自信がないから、自分の走りをクルマに合わせるということができなかったんです。それに対して今年は開幕前の練習でセッティングはほぼ変えずに、自分の走りでなんとかするということに専念して、それができるようになりました。それが今年の自信につながったのだと思います。その結果、今年は練習からレースまで下位に沈むことがなく、常に上位にいることで結果につながっています」
3年目のシーズンを迎えるにあたって、小出が考え方を改めるきっかけがあったようだ。
「そういう風にすべきだと、チーム監督の阿部(正和)さんやアドバイザーの金石(年弘)さんからもアドバイスをいただきました。また、これまでこのチームでレースをしてきたドライバーの実例を聞いたら、そういうやり方をした選手こそが上のカテゴリーで活躍していることが分かったので、このテーマを突き詰めれば間違いないなと思うようになったんです」
HFDPの阿部チーム監督も、今年の小出が自信を持ってレースをしていることを認める。
「今年の彼は『自分が負けるわけがない』と常に自分に言い聞かせながら走っています。これまで色んなことを積み重ねてきたのだから負けるはずがないと自信が持てたようです。レーシングドライバーの“強さ”は自分を信頼できるかどうかにかかっています。うちのチームは単純な走行量という意味では特別に多いほうではありません。でも、彼は自分の家にシミュレーターを用意して練習したり、常に何かを考えたりしています。なおかつHFDPとして今年から専属のフィジカルトレーナーをつけるなどしたことで、肉体面だけでなく精神面からも強さが向上したかもしれません」
シミュレーターについて、小出は興味深いことを語る。
「たしかに自分なりのシミュレーターを用意して、実際のレースに役立てているのは事実です。でも、そのシミュレーターでは“特別な何か”を求めているわけではなくて、ただ単に楽しいから使っているだけなんです。もちろんその過程で、無意識のうちに『もっと速く走るためにはどうすればいいんだろう』と考えることもありますが、そこに使命感や義務感はありません。僕は根っこの部分からレースが大好き、クルマを操るのが大好きな人間です。実際のレースでは、走る前にはものすごく緊張するほうなのですが、走ること自体は大好きなので走り出せば緊張を忘れて、楽しくなってワクワク感に包まれます。楽しさと緊張と半分半分でレースを走っている感覚です」
8月27日から28日にかけて鈴鹿サーキットで開催されたFIA-F4日本選手権第4大会(第7戦および第8戦)に、小出は6連勝を目指して臨んだ。しかし2戦ともポールポジションを逃したばかりか、2戦連続でチームメートの三井優介に優勝を譲り、目指していた連勝は途切れ、シリーズポイントランキングでも1点差ながら三井の先行を許すことになってしまった。
2戦とも2位に入賞し表彰台に上がりながらも、小出はレース直後、悔しさを隠さなかった。しかし、チームに戻った頃にはその表情は柔らかさを取り戻していた。
小出の様子を眺めながら阿部監督は言う。
「今年成長した小出のように自信を持つのはいいことですが、反面難しいところもあります。若い選手の場合、自信より過信が先に立って、一般的に悪い意味でよく言われる“調子に乗っている”状態になってしまいがちです。一方、レースだから今日みたいに負けることもある。2位ではあるけど1位に対して負けは負け。そのときには自分に対する信頼を失わないようにコントロールしてあげなければいけません」
FIA-F4を戦う若い選手はここで腕を磨き、上位カテゴリーへステップアップすることを夢見ている。言い換えれば、FIA-F4は“さっさと通り抜けるべき関門”である。今年3年目のFIA-F4を戦う小出にとっては、意地悪く言えば自身の将来をかけた瀬戸際と言ってもいいシーズン。だからこそ、チャンピオンの座はどうしても譲れないのだろう。しかし、レースを終え、後片付けをしているときの小出の表情に焦りは見えなかった。
「僕は今年3年目。正直なところ、今シーズンは(上位の)スーパーフォーミュラ・ライツ(SFL)に上がりたいと思っていました。でも、今は『今年もFIA-F4をやってよかった』と心の底から思っています。この1年で学んだ自信を持つことの大切さ、それ以外のさまざまな経験は後々絶対に活きてくる。もし昨年のまま、成長していない自分が今年SFLをやっていたら、軸がないままレースに臨むことになり、結果的には苦労していたはずです。上へ行くなら、自分自身がきっちりと準備できた状態まで高め、その上で思いっきり挑みたいと思います」