Japanese FIA F4

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー 2024~洞地遼大~

HFDPドライバーズ・ドキュメンタリー 2024~洞地遼大~

今シーズン、チーム体制を一新したHFDP with B-Max Racing TeamでFIA-F4選手権を戦う洞地 遼大(ほらち りょうた)は、愛知県名古屋市出身の17歳、現役高校生である。5月3日(金)に富士スピードウェイで行われたシリーズ開幕大会第1戦を3位で終えた洞地はレース後、チームメートでありFIA-F4選手権では1年先輩に当たる野村勇斗に半ば詰め寄るように声をかけた。緊迫する場面だった。



12周目、セーフティカーがピットに戻ってレースが再スタートすると、野村の背後にいた洞地はスリップストリームに入って加速し、第1コーナーのアウト側から野村に襲いかかった。チームメート同士、先輩後輩の関係であっても、レースではお互い勝敗を争うライバルである。

洞地は野村に並び、アウトからオーバーテイクしかかったように見えた。しかし、野村も簡単には譲らず、ブレーキを遅らせて洞地に対抗した。その時、野村のホイールが一瞬ロックアップし、白煙が上がってラインが膨らんだ。野村はそれだけ限界まで踏み込み、攻め込んできた洞地を押さえ込もうとしたのだ。未熟な格闘であれば、2台は接触してもおかしくない瞬間だった。しかし洞地はアウト側から野村の動きを冷静に見ており、自分のラインを変えて接触を避けた。その結果、洞地のコーナー脱出が遅れてオーバーテイクはならず、再び野村の背後につくこととなった。

結局そのままフィニッシュを迎え、野村は2位、洞地は3位で表彰台に上がることとなった。しかし、洞地は12周目の攻防について野村と話し合っておくべきだと考え、野村のもとに駆け寄ったのだった。その様子を武藤英紀監督は眺めていた。

「今日のレースでは、2人がちょっと近くなる場面がありました。抜こうとした洞地が腹を立てるのは分かりますが、野村も抜かれまいとしてよく頑張った。それぞれ考えることがあるのがレースです。話し合ってお互いの立場が分かり合えればそれでいいんです」



洞地は昨年、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS)を受講しながら、独自にFIA-F4選手権を戦い、最高位4位、総合ランキング10位という結果を残している。その経験があるとはいえ、HRSのスカラシップを獲得し、HFDPに加わってから初めてのレースを3位表彰台で終えた洞地を武藤は高く評価する。

「今回、予選で洞地のマシンにトラブルが出て、本来20分走れる予選を10分ちょっとしか走れなかったんです。でも洞地は非常に落ち着いていました。ほかの選手がスリップストリームをうまく使ってタイムを上げたのに対し、出遅れた洞地は単独走を強いられましたが、非常にいいタイムを出してきました」 

この公式予選の結果、第1戦を6番グリッドからスタートした洞地。じりじりと順位を上げ、12周目には野村と2番手争いを繰り広げることとなったのだ。

「これまで洞地のレースを見たことがなかったので、もっと荒れた走りをするのかなと勝手にイメージしていました。でも実際には正反対で、周りの状況がしっかり見えていたし、いろいろな場面で冷静に危険回避しながら、本当にうまいこと走ったなと思います。3位で終わりましたが、もっと上を狙えそうな雰囲気があるのですごく楽しみです」と武藤は言う。



洞地はレーシングカートが趣味だった父親の影響で、物心がついたときにはキッズカートに乗っていた。14歳でデビューした2021年全日本カート選手権OK部門では、デビューイヤーにもかかわらずランキング3位になった。この時には「F1を目指そう」と思っていたと洞地は言う。

「小学1年生くらいの時にはプロになりたいと思っていました。そのころF1の存在は知りませんでしたが、レースの一番上は何かなと考えていたんです。F1がトップならばF1を目指そうという夢ができて、そこからずっとレースを頑張ってきました」

翌22年、洞地はHRSに入学する。OK部門でカートも続けながら四輪レースを学んだが、スカラシップには届かなかった。それでも23年、HRS受講2年目のチャンスを得てスカラシップ次席となり、今シーズンのHFDP加入に至ったのだった。

F1を目指す洞地に、あこがれのヒーローは誰かと聞くと即座に「佐藤琢磨選手です」と答えが返ってきた。佐藤琢磨は02年にF1デビューを果たし、10年から活動の場をインディカー・シリーズへ移している。06年生まれの洞地は佐藤のF1時代をリアルタイムでは知らない。

「琢磨選手がF1で走っていたとき、僕はまだ子どもで何も分かりませんでした。その後になって琢磨選手の経緯を知って、すごい人だなと思うようになりました。しかも今はHRSの校長先生でもあります。とにかくすごく尊敬しています」と洞地は言った。

では、今シーズンのHFDPでともに戦い教えを受けることになる武藤監督について、洞地はどう感じているのだろうか。「武藤監督はすごくいい人です。レースに関して的確なアドバイスもくださるし、オフの時はレースとは関係のないおもしろい話をしてくれて、その場をすごくにぎやかにしてくれる存在です」と答えてくれた。

武藤も、場を和ませるということを意識していると言う。

「(洞地は)若くて社会経験もないけれど、HFDPの体制はすごくカチッとしているから、緊張するだろうなと心配していました。なので、少し柔らかいムードにしようと努めています。僕が17歳の時なんて、もっともっと未熟で大変でした。洞地には才能があるので楽しくレースをしてもらいたいですが、あまりダラダラされても困るので、その辺のさじ加減はすごく難しい。自分が経験したことを、うまく伝えていければいいなと思います。一つ厳しいことを言うと、洞地はまだまだ幼いところがあります。例えばこの前は先輩を“君付け”で呼んでいるのを耳にしました。そういう場面では、しっかり注意しています(笑)」



経験も実績も豊富な先輩たちに温かく見守られている洞地。今、彼が目指すのは『勝つこと』のみ。全日本カート選手権OK部門でシリーズチャンピオンになれなかったことを洞地は未だに悔やんでいる。

「まず今の課題は、FIA-F4で勝つことです。レースは勝たないと意味がないです。今回の第1戦は6番手スタートでしたが、そこから追い上げて勝とうと思えば勝てたレースだったと思います。でも勝てなかった。本当に悔しい。レースに『勝ちきる』ことが今、最大の目標なんです」

6月1日(土)と2日(日)、ホームコースでもある鈴鹿サーキットを舞台に開催予定のシリーズ第2大会で、洞地は目標達成に挑む。