トップカテゴリーを目指す「3年目はない」戦い。FIA-F4に挑む3人のHFDPドライバー
2023年度、FIA-F4日本選手権シリーズにHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)から参戦し、レーシングドライバーとしての未来を切り拓こうとしているのは、三井優介(2002年04月22日生まれ。21歳)、野村勇斗(2005年11月12日生まれ。17歳)、森山冬星(2003年1月10日生まれ。20歳)の3人だ。
3人ともHRS Suzuka(ホンダ・レーシングスクール鈴鹿)の卒業生。三井は昨年からFIA-F4シリーズに参戦し、3勝を記録してランキング2位でシリーズを終え、今年は2年目のシーズンに臨んでいる。HRSで三井と同期だった野村は昨年、フランスF4選手権に参戦、2勝してシリーズ7位となり、今年は活躍の舞台をFIA-F4日本選手権に移した。そして森山は昨年HRSを卒業、スカラシップを得てFIA-F4日本選手権参戦を決めた、四輪レースルーキーである。
“2イヤーズ・フォーミュラ” 勝負の2年目へ向かう三井
2シーズン目のFIA-F4参戦を迎えた三井は言う。
「チャンスをもう1度いただけることになって、ありがたい気持ちでいっぱいでした。僕を起用してくれた皆さん、それから支えてくださったチームの皆さんに結果を出すことで恩返しできるように……2年目ですから、必ずシリーズチャンピオンを獲ろうという意気込みで、シーズンオフにはテストを重ねて開幕に備えました」
FIA-F4は、上位カテゴリーへの進出を目指す若手選手が鍛錬をする場であり、残酷ながら選抜・淘汰の場でもある。2シーズン戦って結果が出なければ「上位カテゴリーで活躍できる可能性が低い」と評価されかねないと言う意味で、関係者のあいだでは“2イヤーズ・フォーミュラ”と呼ばれることさえある。
2年目を迎えた三井も、自分が置かれた立場をよく理解している。「3年目はない、ということはよく分かっています。でも、追い詰められている気はしません。昨年を振り返ると、オートポリス、もてぎに関しては走行経験が足りなかったこともあって大きな差をつけられてしまったような気がします。今年は昨シーズンの経験を活かして『違う戦い方ができるぞ』と、むしろ楽しみな気持ちになっています」
こうして迎えた2023年シーズンだったが、富士スピードウェイで開催された第1大会では、2レースとも速さを持ちながらペナルティーやミスに泣き、なんと2戦連続で無得点という思いもしなかった結果となった。シリーズチャンピオン奪取を目標にしている三井にとっては最悪の開幕である。
どん底の精神状態に落ち込んだ三井は気持ちを切り替えて鈴鹿サーキットでの第2大会を迎えた。
「第1戦、第2戦とああいう結果でした。速さにも強さにも自信がありますし、それに磨きをかければ結果はついてくると信じて、なんとか気持ちを切り替えました。結果が出なくて後悔するのは自分なのだから、それなら『とことん攻めて満足できるだけ自分の力を出し切ろう』『それでもダメなら自分の中で納得しよう』と考え、とにかく全力で攻め続けようと思いました」
その結果、三井は第2大会で2レース続けてポール・トゥ・ウインを飾り、一気にシリーズランキング2番手に浮上。チャンピオン争いに復帰を果たした。
「今回の連勝で、前回失った信頼を多少は取り戻せたと思うので、このまま期待に応えられるようにがんばりたいと思っています。将来の希望は、日本だけではなくて、世界のどこへ行っても通用するような、速くて強いレーシングドライバーになることです。日本のレースも魅力的ですが、やっぱり何千人、何億人がいる世界のトップになりたいんです」と三井は胸の内を語ってくれた。
フランスF4での学びを糧に、もう一度ヨーロッパを目指す野村
フランスでのレース活動を終え、日本のレースに転進した野村は、今シーズンに向けて何を考えていただろうか。
「昨年はフランスF4に出させていただきましたが、今年は日本へ帰ってこなければならなくなりました。昨年の成績を考えたら、仕方がありません。自分でも納得です。昨年はトップとの差を痛感しました。特にスピード面での差が結構ありました。今年は日本で戦いますが、2年目は自分にとって重要な年なので『絶対に勝つ』という強い気持ちを持って挑んでいます」
野村もまた「2年目」を強く意識しながら、前を見て突き進もうとしている。
「日本でしっかり学び直して、もう1度ヨーロッパのレースに挑戦したいです。最終的な夢はやはり小学2年生の時から思い続けてきたF1ドライバーになることです。今年はスクールを卒業して2年目、土壇場であることは意識しています。でも特に怖さは感じていません。もちろん緊張は十分すぎるほどしていますが、レースをやる限り緊張感はつきもので、種類が違うだけです。やることはいつも同じなんだから、自分のできる最大限のことを毎レースで積み重ねていくだけだと思っています」
1年間のフランスF4選手権参戦で、野村は多くのことを学んだと言う。
「接触が多すぎました。ヨーロッパの選手たちは非常にアグレッシブなので、それに釣られて自分も熱くなってしまった結果だと思うので、今年はそこを意識し、しっかり視野を広げて無理はしないように走ろうと考えています。そういうバトルのやり方という面で、フランスでは非常に多くのことを学びましたし、今年のレースにも活かせると思います」
同じ国際規格の「F4」ではあるが、国ごとに選手権で用いる車両が異なるので、野村は当初日本のFIA-F4に違和感を覚えた。
「フランスのF4はターボ車なんですが、日本のF4にはターボがついていないので、アクセルのタイミングが変わってきます。また、フランスのクルマの方が一回り大きいんです。日本のF4はより敏捷に動くので、そこに戸惑っているという面はあります」
しかし開幕2大会、4レースを終えた野村は日本のFIA-F4を乗りこなしつつある。その結果が、第2戦以降3戦連続の表彰台である。
問題はHRS卒業後、そのままフランスへ渡って1シーズンを戦い、日本へ帰ってきたばかりの野村には、国内のサーキットを走った経験がほとんどないという点にある。
「シーズンを考えると、この先走ったことがないコースが出てきます。実は今年まで鈴鹿しか経験がなくて、開幕大会の富士スピードウェイも初めて走ったんです。だから最初は1秒くらい周囲より遅くて焦りました。でもレースウイークに入ったら結構うまく合わせられたので、経験のないオートポリスやもてぎでも同じ調子で、短い練習量の中でなんとか合わせていきたいです」
開幕2大会4レースを終えて、野村はシリーズランキング3番手につけ、今シーズンに手応えを感じていると言う。
「これからもっと自分は伸びていけると手応えはあるので、しっかり結果に結びつけていきたいです。どうしてももう1度ヨーロッパに挑戦したいので、そのためにはチャンピオンを獲らないといけません。絶対獲ります」と、野村は力強く言い切った。
四輪ルーキー森山の決意と戸惑い
昨年HRSを受講し、今シーズン初めて本格的な四輪レースにデビューした森山は、シーズン開幕に向けて「今年は絶対にチャンピオンを獲ろう」と決意したと言う。
「今年、FIA-F4に参戦する機会をいただけて本当にうれしかったです。実戦と言う意味では、レーシングカートの全日本選手権時代から、どのレースでも勝つつもりでやってきて、それは今年四輪にステップアップしても変わりません。舞台がちょっと大きくなったかな、くらいの気持ちでいます。そういう面で僕は実戦には慣れているんだと思います」
HFDPでチームメートになる三井や野村とはレーシングカート時代からの顔見知りで、デビューシーズンながらチームの環境には全く違和感なく溶け込めたと言うが、FIA-F4というマシンの乗りこなしには戸惑っていると認める。
「フォーミュラカーは、思ったように動いてはくれません。それは第2大会が終わっても続いています。タイヤが4つついているという点は同じなのに、レーシングカートと何が違うのかがまだ理解できないんです。でも、この先ステップアップしていくためには、クルマのことを勉強して、セッティングも自分で出せるようにしないといけないのでがんばっています」
FIA-F4クラスのカテゴリーになると、実際にマシンを走らせて練習する機会は限られるが、それについて森山は不安を感じることはないと言う。
「レーシングカートには今でも時々乗るんですが、四輪で練習する機会は全くありません。ただ、FIA-F4と違うクルマに乗って練習しても、それほど参考にはならないと思うので、むしろあまり乗りたくないんです。と言うのも、変な癖をつけたくないから。それなら基本的な感覚をレーシングカートで磨いた方がいいなと考えています。あとは、Hondaの先輩、たとえば今年はスーパーフォーミュラライツに乗っている小出さん(峻。22年度FIA-F4チャンピオン)だったり、(木村)偉織さん(21年度FIA-F4シリーズ3位)だったり、そういう人から話を聞く機会がある時にしっかりコミュニケーションをとって、吸収してモノにしようと思っています」
すでに2大会4レースを終えた初めてのシーズン、森山は開幕戦から着実にシリーズポイントを重ね、第4戦で初めて表彰台に上がり、現在ランキング4番手と健闘している。
「シーズン序盤を振り返ると、どのコースでも速さは見せることができているかなと思います。一つひとつのレースで優勝できるように集中していますし、日頃からもトレーニングを重ねていろいろがんばっています。この努力はいつか絶対結果になって実ると信じています。今年の結果は当然自分の未来につながると思っていますから、チャンピオンが獲りたいです。未来の目標はもちろん小さい頃から目標にしてきたF1ですが、スーパーフォーミュラやGT500にも憧れています。とにかくトップカテゴリーでトップ選手になれるようがんばります」
未来を切り拓くため、HFDPでFIA-F4日本選手権を戦う若い選手たちは、それぞれの思いを抱えてレースに挑み、コーナーを攻め、ライバルと戦っている。今季のFIA-F4は、8月の富士大会からシーズン中盤戦に突入していく。