Honda F1、7年間の歩み
2015年にHondaがF1へ復帰してから7年間。その歩みを印象に残る場面を追いながら振り返ります。
2008年限りでF1から撤退していたHondaが、マクラーレンをパートナーに、7年ぶりの復帰。新パワーユニットでの新たな挑戦がスタートしました。1980~90年代に栄光を誇ったタッグの復活は、大きな話題となった一方、パワーユニット規定が導入されてから1年遅れでの参戦ということで、他マニュファクチャラーに追いつくために多くを学ばなければなりませんでした。
2015年は厳しいシーズンとなったものの、ハンガリーGPでは、フェルナンド・アロンソが5位、ジェンソン・バトンが9位に入るなどポジティブな瞬間もあり、バトンは米国GPでも6位に入りました。
初年度での苦戦を糧に、McLaren Hondaは着実に前進。パワーユニット「RA616H」も競争力を増し、アロンソ、バトンともに安定してポイント争いができるようになっていきます。
前年に獲得したポイントをシーズン折り返し時点で上回り、ロシアやモナコではダブル入賞。トップ8でのフィニッシュが定位置となり、マレーシアとオースティンでは6位に。最終的に前年の3倍近くのポイントを獲得し、コンストラクターズチャンピオンシップ6位でシーズンを終えます。
2017年にはPUのデザインを一新。新レイアウトのPUについて試行錯誤を繰り返し、技術的に多くの学びを得た1年になったものの、MGU-Hをはじめとして、数々の信頼性のトラブルなどに見舞われ、マクラーレンとの関係は悪化。大きな期待とともに開始されたパートナーシップは、2017年限りで解消となります。
信頼性のトラブルに加え、成績も上向かず、非常に苦しい時間を過ごした一方で、HRD-Sakuraの開発チームでは、2018年以降の躍進のキーとなる新たな燃焼方式についてのヒントが見つかるなど、シーズン後半には暗闇の中にもわずかに光明が差してきた年でもありました。
2018年からはScuderia Toro Rossoと新たな挑戦が始まります。初めてワークスチームとなったToro Rossoでしたが、2戦目のバーレーンGPでピエール・ガスリーが4位入賞を果たします。
わずか2戦で2015年から2017年までの最高成績を上回る結果を残せたこともあり、それまで自信を失っていたHondaのメンバーも、少しずつ自分たちの進んでいる方向が正しいことを実感できる年になりました。技術的な部分に加え、Toro Rossoというイタリア人中心のチーム独特の明るい雰囲気が、Hondaのメンバーに前を向かせてくれた面も大きく、時を経るごとにパートナーシップのつながりは強まっていきました。
着実に結果を積み重ねることで、Honda、Toro Rossoともに自信を深め、モナコとハンガリーでもシングルフィニッシュ。HondaのPUも年を通じて進化を果たし、第7戦カナダGPでスペック2、第16戦ロシアGPでは日本GPを見越してスペック3を投入するなど、信頼性とパフォーマンスを確実に向上していきました。スペック3では新たな燃焼方式を持つICEを投入。この技術を磨いていくことで、2019年以降、徐々にトップの背中が見えてくるような戦いをできるようになります。スペック3のPUを使用したHondaのホーム鈴鹿では、ブレンドン・ハートレーとガスリーが揃ってQ3進出を決めるなど、今後の飛躍に向けた基礎がこの一年で出来上がっていきました。
Toro RossoはRed Bull系列のチームではありますが、2018年の段階では、トップチームであるRed Bull RacingとHondaの関係は何も決まっていませんでした。彼らとのパートナーシップ締結については、2018年のパフォーマンス次第でしたが、その決め手となったのは、第7戦カナダGPで投入したスペック2のパフォーマンス向上でした。
そして、フランスGPを控えた2018年6月19日。2019年から2年間のRed Bull Racingへのパワーユニット供給を正式に発表。HondaにとってはF1復帰後初めての2チーム供給となりました。チーム代表のクリスティアン・ホーナー氏は、チームにとって「エキサイティングな新章の始まりだ」とコメントし、チャンピオンシップ争いを目指して戦っていくことになります。
2018年の進歩を経て、それまで多くの勝利を収めたRed Bull Racingへパワーユニットの供給を開始。いよいよ勝利を目指せるパッケージになるということで、大きな期待を集めてシーズンがスタートします。
初戦のオーストラリアGPでは、マックス・フェルスタッペンが予選で4番グリッドを獲得。レースでは序盤に5番手までポジションを落とすものの、そこから追い上げて2台のフェラーリ勢の前へ。さらにはディフェンディングチャンピオンのルイス・ハミルトンの背後に迫り、わずか1.7秒差の3位フィニッシュ。これが、Hondaにとっては2008年イギリスGP以来の表彰台となりました。
開幕戦での表彰台を皮切りに、フェルスタッペンはスペインGPでも再びポディウムへ。12戦連続トップ5フィニッシュを果たしますが、そのハイライトが第9戦でした。
Red BullにとってのホームレースであるオーストリアGPで、フェルスタッペンはフロントローからスタート。しかし、スタートでの出遅れによって8番手まで順位を下げます。そこから追い上げて4番手で最後のピットストップを終えると、セバスチャン・ベッテル、バルテリ・ボッタスをオーバーテイクして2番手へ。首位のシャルル・ルクレールを追い詰めると、残り3周で見事にパスして勝利をつかみ取ります。
Hondaにとっては、2006年ハンガリーGP以来13年ぶりの優勝となり、田辺豊治テクニカルディレクターが表彰台に登壇するなど、記憶に残るレースになりました。
そこから2戦後のドイツGPでは、フェルスタッペンが2勝目を挙げます。波乱の展開となったこのレースでは、Toro Rossoのダニール・クビアトが3位表彰台を獲得。Toro Rossoにとって2008年の初勝利以降となる、チーム史上2回目のポディウムとなりました。Hondaにとってもゼロから歩みを共にしたToro Rossoと2年目での表彰台獲得は非常に感慨深いものがあり、今回のプロジェクトの中のハイライトの一つになっています。
一方で、フェルスタッペンはこのレースでファステストラップも獲得したものの、いまだポールポジション獲得は果たせていませんでした。
第12戦ハンガリーGPは、オーストリアやドイツのホッケンハイムと特性が大きく異なるサーキット。フェルスタッペンはそれをものともせず、Q1からトップに立ち続けると、Q3最終アタックで2台のメルセデスを上回ってポールポジションを獲得。これは、Hondaの復帰後初というだけでなく、フェルスタッペンにとってもF1キャリア初のポールポジションでした。
レースは緊迫した展開となり、最後は戦略の差で2位に終わるも、フェルスタッペンはシーズン5度目の表彰台登壇で前半戦を締めくくりました。
後半戦からRed BullからToro Rossoへと戻ってきたガスリーでしたが、素晴らしいパフォーマンスを見せてチームを引っ張ります。そして、忘れられないインテルラゴスでのレースを迎えます。
レースは何度もセーフティカーによる中断が入る波乱に満ちた展開となる中、フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインでシーズン3勝目。リスタート時には、フェルスタッペン、アレクサンダー・アルボン、ガスリーとトップ3をHondaパワーユニット勢が占めていましたが、ハミルトンに接触されてスピンを喫して後退してしまいます。ここで2番手に浮上したガスリーは、最終ラップの最終コーナーでハミルトンに並びかけられるも、そこからの直線勝負で突き放して2位フィニッシュ。
これが、Hondaにとっては復帰後初の1-2フィニッシュとなり、Toro Rossoもチーム史上初めてシーズン2度目の表彰台に登壇しました。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、F1だけでなく世界中が大きな影響を受けました。F1もシーズン開幕が4カ月近く延期され、ようやく初戦が開催されたのは7月のオーストリアでの2連戦。ここで、王者メルセデスに対抗できる存在としてパフォーマンスを発揮したのがRed Bull Racingでした。
フェルスタッペンは開幕戦こそリタイアに終わったものの、シルバーストーンでのシーズン初勝利を含む、5戦連続表彰台登壇を果たします。そして、モンツァで行われたイタリアGPでは、赤旗中断によって大きく動いた流れをガスリーがつかみ、見事なレース運びを見せてキャリア初優勝を達成。表彰台の涙は多くの人の心を打ちました。
最終戦のアブダビGPでは、フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインで締めくくり、この年Hondaパワーユニットは3勝。2021年の飛躍に向けた布石の一年になりました。
Red Bull Racing、Scuderia AlphaTauriへのパワーユニットサプライヤーとして最後の一年となった2021年。Hondaは、少しでもいい形でシーズンを終えるべく、2022年向けに開発していた新骨格のパワーユニットを前倒して投入しました。
空力に関するレギュレーションも変更され、これによって落ちるグリップをどう取り戻すか、車体側にとっても忙しいシーズンオフとなりました。開幕戦バーレーンGPでは、フェルスタッペンがポールポジションを獲得し、僅差の2位に。続くイモラでの第2戦で初勝利を挙げると、2戦連続の2位を挟んで第5戦モナコで2勝目をマークし、素晴らしいスタートを切りました。
この年からRed Bull Racingに加入したセルジオ・ペレスは、アゼルバイジャンGPでフェルスタッペンがタイヤバーストによって失ったレースで勝利を挙げ、ガスリーも3位表彰台へ登壇。タイトル獲得を目指す一年は、順調な序盤となりました。
前半戦は快進撃が続き、オーストリアではHondaとして1988年以来の5連勝を達成。Red Bullとの初勝利を挙げた地で、また一つ歴史に歩みを刻みました。今季唯一の同サーキットでの2連戦となったオーストリアでしたが、両レースともにフェルスタッペンがポール・トゥ・ウイン。ホームの観衆を大いに沸き立たせました。
特に、オーストリアでの2戦目は、コロナ禍となってから初めて観客のフル動員が認められ、熱狂的な雰囲気の中でのレースに。ここでフェルスタッペンは、ポールポジション、ファステストラップ、優勝、全ラップリードという、「グランドスラム」をキャリアで初めて達成しました。
コロナ禍の影響は完全には払拭できず、ラストイヤーのホームレース、日本GPは中止となってしまいます。しかし、当初の日本GPが予定されていたレースウイークに行われるトルコGPでは、チームとともに特別デザインのマシンでファンの皆さんへの感謝を表現しました。
イスタンブールで話題を一手に集めたスペシャルカラーは、両チームが「ありがとう」のメッセージを載せたリアウイングを使用し、Red Bullは白色がベースのマシンで参戦。このレースでフェルスタッペンが2位、ペレスが3位に入り、シーズン2度目のダブル表彰台を手にしました。
この2週間後の米国GPでは、カラーリングこそ通常通りに戻ったものの、両チームがAcuraのロゴをまとって参戦。ここではフェルスタッペンが勝利を挙げ、ペレスも3位に入って再びダブル表彰台を獲得。連戦でペレスのホーム、メキシコへと向かいます。
レースウイークを通じて好ペースを発揮したRed Bullでしたが、予選ではフロントローを逃して2列目に並びます、しかし、レースではスタートでフェルスタッペンが華麗なオーバーテイクで上位2台を差し切り、ターン1で首位に浮上。そのまま後続を突き放して勝利へ向かいます。
フェルスタッペンは他を寄せ付けずに今季9勝目を挙げ、ペレスも3位に入って母国で表彰台に登壇。熱狂的なメキシコのファンが、例年以上に沸き立つ印象的なセレモニーとなりました。
Red Bull Racingと59戦、2015年の復帰からは140戦を経て迎えた最終戦のアブダビGP。両チャンピオンシップを賭けて最後の一戦に臨みます。コンストラクターズランキングは28ポイント差に開いてはいますが、Red Bull Racingは最後まで諦めずに戦い続けます。
そして、ドライバーズチャンピオンシップは、フェルスタッペンとハミルトンが同一ポイントで最終戦を迎えました。フェルスタッペンは、ハミルトンを上回れば、自身初のワールドチャンピオン獲得。ハミルトンがノーポイントとなった時点でもタイトルが決まります。
この週末がどんな結果で終わろうと、この7年間を誇りに思っていますし、ひたむきな努力や、勝利への意志によって、タイトルを争える位置まで上り詰めることができたことは揺るぎません。Hondaが追求してきた技術の進歩は、勝敗にかかわらず色あせることはないと信じています。
泣いても笑っても最後の一戦、勝利をつかみ取り、最高の形で新たな挑戦へ旅立ちたいと思います。