Formula 1

田辺豊治TDが語る今季の戦い

2021年シーズンは9戦を終えました。ここまで、Hondaパワーユニット勢は6勝を挙げて全体の3分の2で勝利。モナコGPからオーストリアGPにかけて5連勝中です。前戦で3連勝となったマックス・フェルスタッペンがドライバーズチャンピオンシップを、Red Bull Racing Hondaがコンストラクターズチャンピオンシップをリード。ここまでの戦いについて、Honda F1の田辺豊治テクニカルディレクターに聞きました。

田辺豊治TDが語る今季の戦い

「シーズン序盤はやや厳しい戦いでしたが、今は開幕のころよりもいい状態だと思います。連勝することの難しさはよく分かっているつもりです。全体のパフォーマンスを向上し続け、レースではすべてを完璧にミスなく機能させなければなりません。5連勝は素晴らしい結果ですが、これからも一戦一戦を集中して戦っていきたいですし、そうすれば結果はついてくるはずです」

目の前のレースに集中し、すべきことをきっちりと果たすことで勝利をつかみ、Red Bull Racing Hondaはトップの座に立っていますが、田辺TDは現場の裏側で重ねられている努力の成果でもあると考えています。

「パフォーマンスを発揮してここまで9戦6勝というのはいい結果ですし、ドライバー、コンストラクターともにチャンピオンシップをリードできています。ただ、シーズン23戦あるうちの9戦が終わっただけですから、まだ先は長いです」

「昨年からオフシーズンにかけての多くの取り組みにより、Hondaとしても新型のPUを投入し、車体側も大きな改善を果たしてきました。結果としてパッケージ全体のパフォーマンスを向上できましたし、シーズンが始まってからも改善の手は止めていません。こうした努力が実を結んだことで、現在の高い競争力を発揮できています」



パフォーマンス向上だけではなく、ここまで1回もPUが原因でのリタイアがないという点も、好調の要因で、Red Bull Racingはコンストラクターズランキングを44ポイント差でリードできています。

史上最多のレースが予定されている今季は、まだ14戦が残されています。田辺TDは、現在の順位には勇気付けられるものの、ここまでの結果に慢心してはいません。

「フランスGPからは2基目のPUを投入しました。PUはパフォーマンス、信頼性ともに期待通りの性能を発揮していますが、前述の通り、まだ9戦が終わったに過ぎません。ここから長いシーズンが続いていくので、常に状況を見極めながら、パフォーマンスと信頼性のバランスを考えていきます。必要に応じてPUの使い方を最適化しています」

では、今季ここまでで、田辺TDが最も印象に残っているのはどのレースでしょうか。

「アゼルバイジャンが印象的です。明暗両面があったレースでした。フェルスタッペン選手が好ペースを重ねて大差でリードしながら、タイヤバーストによってリタイアを余儀なくされましたが、ペレス選手が代わって首位に立ち、Red Bull Racing Hondaが勝利を手にしました。チームワークの強さを示したレースだったので、私の中ではハイライトの一つになっています」



「Red Bull Racingとしては1-2フィニッシュ達成寸前でしたので勝利したとはいえ不運なレースでしたが、一方でScuderia AlphaTauri Hondaも予選・決勝ともに好調でした。1-2もそうですが、我々はAlphaTauriの表彰台登壇も目標としていたので、2つのチームとともに1-3位のダブルポディウムを獲得できたのは素晴らしい結果でした」 

AlphaTauriは、Red Bullに比べて好不調の波が大きいシーズンとなっていますが、中団勢の戦いが僅差になっていることに加え、ルーキードライバーを起用していることから、想定の範囲内と言えるでしょう。ピエール・ガスリー、角田裕毅ともにフェラーリやマクラーレンといったライバルたちと互角に渡り合っており、チームはコンストラクターズランキングで過去最高位の5位という好位置につけています。 

「2018年に、AlphaTauri、当時のToro Rossoと組んで現在に至っていますから、AlphaTauriが中団でパフォーマンスを発揮していい戦いができていることは、Hondaとしてもうれしいです。ガスリー選手は予選で力強い戦いを見せてくれていますし、ルーキーの角田選手も経験を重ねながらパフォーマンスを向上させています。彼らは強いチームであることは間違いありません」

ここまで今季は好調が目立っていますが、それが続く保証はありません。レッドブル・リンクではライバル勢を圧倒することができましたが、それがシルバーストーンでも同様だとは限りません。田辺TDはどのサーキットでも楽観視はしていないですし、さらに今週末は新しいフォーマットへの対応も課題になります。



「我々にとっては、どのサーキットも難しいです。レースが終わって少し楽な戦いだったなと言えることはあるかもしれませんが、事前に今回は楽勝だなんて思っているレースはありませんし、そういった見立てを事前にすることは不可能です。すべてのレースが厳しい戦いであることに変わりはありません」 

「今週末のシルバーストーンでは、新たな課題として、スプリント予選のフォーマットが導入されます。予選までにフリー走行は1回しかないので、そこでできる限りPUのセットアップを煮詰めていく必要があります。スプリントレースをやるということは、PUをレースモードで使う時間が増えるということなので、シーズンを通したPUの運用についても検討しなければなりません」 

「今シーズンはさらに2戦でスプリント予選が実施されるので、次戦以降のPUの使い方を考えていく必要があります。シーズン全体で使える基数は決まっているので、複雑な運用が求められます」

 フランスGPで投入した2基目のPUについては、ライバル勢から、大きなパフォーマンス向上を果たしたというコメントが飛び出しました。今季のレギュレーションでパフォーマンスの改善は認められていないにもかかわらず、こうした発言があることに、田辺TDは「少しだけフラストレーションを感じる」と語る一方で、鮮烈なパフォーマンスレベルだからこその評価だとも捉えているようです。

「我々がFIAの定めたPUレギュレーションに従ってシーズンを戦っているということを、はっきり伝えておくべきだと思っていますし、実際に、FIAのプレスカンファレンスでもそういった話をしました。一方で、こうした噂が出たり、記事になったりしているのを目にするのはうれしいことでもあります。自分たちが進歩していると感じられますし、より注目してもらえるので、Hondaにとっても両チームにとってもいいことです」



Hondaにとっては素晴らしいシーズンとなっていますが、重要なのはあくまでも最終的な順位です。チャンピオンシップのリードを保ったままシーズンを終えて、F1最終年での有終の美へ。 

「Hondaがレースに参加する以上、カテゴリー問わず、すべてのレースで勝利を目指してチャンピオンを獲るというのが目標です。HondaにとってはF1で最後のシーズンになるわけですから、このチャンスを逃すと、目標は達成できないままになってしまいます」 

「まだ先は長いですが、目標を達成するために残りのレース一戦一戦で全力を尽くし、我々の悲願であるチャンピオンシップを獲得できればと思っています」



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