2022 鈴鹿8時間耐久ロードレース プレビュー
真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(以下、鈴鹿8耐)は、1978年に第1回大会が開催されて以来、毎年夏に行われてきましたが、2020年~2021年は新型コロナウイルスの影響で大会休止となりました。今年は3年ぶりの開催となり、鈴鹿8耐の歴史の針が再び動き出しました。
それでも、新型コロナウイルスの影響は色濃く残り、参戦ライダーやチームスタッフ、メディア関係者と開催に関わる人すべてにPCR検査が義務付けられ、パドックの出入りは厳しく制限されて行われます。それでも、ファンにとっては待ちに待った開催です。
Hondaはこれまで27回もの勝利を数え、1997年から2006年までは10連勝と無敵を誇りました。1997年は伊藤真一/宇川徹がRVF/RC45を駆り、日本人ペアによるフルタイムでの初勝利を飾りました。このペアは翌年も勝ち、連勝しています。また、2002年にはVTR1000SPWを駆り、加藤大治郎とコーリン・エドワーズが、通常7回のピットストップを6回とした作戦で、219周の最多周回数記録を打ち立てました。その記録は、未だ破られていません。鈴鹿8耐の最多勝記録は宇川徹の5勝で、2005年に達成されており、超える者はいまだ現れていないのです。
2019年鈴鹿8耐は、Red Bull Honda(高橋巧/ステファン・ブラドル/清成龍一・CBR1000RRW)、カワサキ、ヤマハのワークス勢がし烈なトップ争いを繰り広げました。3チームが同一周回数で最後まで接近戦を見せる激闘は、近年で最もエキサイティングな戦いとなりました。終盤に降った雨と、オイルを出してしまったマシンがあったことで、混乱の中でトップを走っていたカワサキのジョナサン・レイが転倒して赤旗が提示。そのままレース終了となり、優勝はヤマハ、2位Red Bull Hondaと発表されて表彰式まで行われましたが、それがカワサキ優勝と覆る波乱となり、Red Bull Hondaは3位という結果になりました。
Hondaは2014年に高橋巧/レオン・ハスラム/マイケル・ファン・デル・マークが優勝して以来勝利がなく、今年は8年ぶりの勝利を狙います。Team HRCを率いるのはロードレース世界選手権(MotoGP)の監督も経験した山野一彦監督。山野監督は「2019年に宇川監督が組織したチームをベースに、宇川にもスタッフとして入ってもらいました。MotoGPなどのキャリアのあるスタッフに加え、HRCの技術の伝承という意味を含めて、新人スタッフも入れてチームを編成しています。ライダーはオーディションの結果、長島哲太、高橋巧、イケル・レクオーナとなりました。周回数の最多記録更新を目指し、優勝を狙います」と語ります。
マシンはCBR1000RR-R FIREBLADE SPで、ロードレース世界選手権Moto2クラスで活躍していた長島が昨年からテストライダーとなり、この鈴鹿8耐に向けて準備を整えてきました。英国スーパーバイク選手権(BSB)で2年目を戦う高橋は、鈴鹿8耐3勝の実績を持ち、近年の鈴鹿8耐ではなくてはならない存在です。スーパーバイク世界選手権(WSBK)のHRCワークスライダーとして挑んでいるレクオーナは、初の8耐に挑みます。
市販キット車CBR1000RR-R FIREBLADEを駆る有力チームの存在も鈴鹿8耐に欠かせません。全日本ロードレース選手権JSB1000クラスのレギュラーチームの多くが参戦します。8耐優勝経験豊富なハルク・プロは、#73 SDG Honda Racingとして参戦。本田重樹監督の下、ライダーは名越哲平、スペインスーパーバイク選手権に参戦中で、今季からHondaにスイッチした浦本修充、そして榎戸育寛となりました。これからのレース界を担う若手ライダーたちを起用し、勝利に挑みます。
鈴鹿8耐4勝の実績を誇る清成龍一は、#104 TOHO Racingから、ST1000の國峰啄磨、國川浩道とともに参戦します。伊藤真一が監督を務める#17 Astemo Honda Dream SI Racingは、チームとしては初の8耐参戦となります。JSB1000のエースライダー作本輝介とST1000チャンピオンの渡辺一馬は、鈴鹿8耐表彰台経験のある実力者です。その2人に、今季からST600に参戦している羽田太河が加わりました。
#9 Murayama.Honda Dream.RTからは、鈴鹿8耐3勝の実績がある秋吉耕佑、出口修、今野由寛のラインアップで参戦します。#72 Honda Dream RT SAKURAI HONDAは濱原颯道をエースライダーとして挑みます。昨年の全日本JSB1000ではHonda最高位のランキング2位を獲得した濱原に、鈴鹿のみの参戦で力を示している日浦大治朗、ロードレース世界選手権Moto3から全日本ロードレースST600にスイッチした國井勇輝が初の鈴鹿8耐に挑みます。
#40 Team ATJはJSB1000の岩田悟、ST1000の高橋裕紀、ST600の小山知良のラインアップです。高橋、小山はともにロードレース世界選手権(WGP)で活躍、全日本でもタイトルを獲得している実力者で、強力な2人を迎えて上位進出を目指します。Honda鈴鹿製作所の社員チーム、#25 Honda Sofukai Suzuka Racingの亀井雄大は今季JSB1000でポールポジションを獲得し注目を集めています。亀井に加えて杉山優輝、田所隼のラインアップで参戦します。
アジアロードレース選手権からは、#88 Honda Asia-Dream Racing with SHOWAが参戦します。ASB1000のモハメド・ザクワン・ビン・ザイディ、ゲリー・サリム、SS600のヘルミ・アズマンのラインナップで、玉田誠が監督を務めます。近年力を付けているアジアライダーたちが、鈴鹿8耐でどこまで上位に食い込むことができるのか、注目が集まっています。
世界耐久選手権(EWC)シリーズの一戦としても注目
鈴鹿8耐はEWCシリーズの3戦目に組み込まれています。2019年までは、鈴鹿8耐を最終戦とするためのスケジュールで年またぎのシリーズとして戦われてきましたが、新型コロナウイルスの影響もあり、昨年からワンシーズンにスケジュールが調整されました。
今季は当初5戦が予定されていましたが、5戦目がカレンダーから消え、4戦でタイトルが争われます。開幕戦はル・マン24時間耐久(フランス)、2戦目にスパ24時間耐久(ベルギー)が行われ、3戦目に鈴鹿8耐、最終戦がボルドール24時間耐久(フランス)となります。
2017~18シーズンにEWCで日本チームとして初のタイトルを獲得した#5 F.C.C. TSR Honda Franceは、EWCレギュラーメンバーのまま鈴鹿8耐を戦います。藤井正和監督は「ジョシュ・フック、ジーノ・リア、マイク・ディ・メリオの3人で勝利を目指す」と語りました。現在、EWCランキング2位からの逆転を狙います。
鈴鹿8耐の優勝争い同様、EWCのタイトル争いもし烈なものとなっており、EWCチームのレベルアップは、8耐のトップ争いへと絡むほどになっています。藤井監督は「年々レベルの上がるEWCの戦いは、MotoGPを戦っているのと変わらない緊張感だ」と語ります。EWCチームによる攻防戦も大きな見どころの一つです。